最新記事

経済

トルコ、エルドアン大統領自らロンドンで投資家向け説明会 経済法則無視の政策に不信高まる

2018年5月17日(木)10時26分

5月15日、通貨リラの急落に見舞われているトルコのエルドアン大統領(写真)による経済政策説明会に出席した投資家のあいだに「衝撃と不信感」が広がった。ロンドンで14日撮影(2018年 ロイター/Henry Nicholls)

トルコのエルドアン大統領が率いる政府代表団が14日、ロンドンで有力機関投資家に経済政策の説明会を開いた。通貨リラの急落に見舞われいるトルコとしては、政策運営に安心感を持ってもらう狙いだったが、出席した投資家の間には「衝撃と不信感」が広がった。

投資家が困惑を隠せなかったのは、エルドアン氏が景気刺激のための金利引き下げを目指しながら、物価上昇と通貨安に歯止めをかけるという同氏の計画が、一体どうやって実現できるかのか理解できなかったからだ。

何人かの投資家からは、エルドアン氏は国内の政敵を倒したとはいえ、経済学の正統な理論を無視した政策で国際金融市場に挑戦することは、はるかに難しいのだと思い知るだろうとの声が聞かれた。

最近はドル高の再燃や原油価格上昇、借り入れコストが跳ね上がっていることが、新興国市場全般を大きく混乱させている。しかしそうした要因で最も打撃を受けているのはトルコで、大幅な経常赤字を抱え、金融政策の独立性を巡る懸念が強まっていることが背景にある。

15日には、エルドアン氏が6月24日の大統領選と国会総選挙後に経済の統制を強化する意向を示すと、中央銀行の物価コントロール能力を巡る不安が強まり、リラは過去最安値を更新した。

トルコの物価上昇率は昨年初め以降2桁に戻っているが、エルドアン氏は自らを高金利に対する抵抗者と位置付け、物価抑制には金融引き締めで対応するという金融政策の理論を歯牙にもかけようとしない。

複数の投資家はロイターに、この局面で国際金融市場とあえて対決しようとしているエルドアン氏の姿勢には、開いた口がふさがらないと打ち明けた。

危険な闘い

エルドアン氏には敵対者が多く、その中には同氏が2016年のクーデター未遂事件の首謀者と批判する在米イスラム教指導者ギュレン師も含まれる。

ある大手資産運用会社のファンドマネジャーで、トルコのシムシェキ副首相との非公開会合に出席した人物は「エルドアン氏は反対勢力やギュレン師、過激主義者などと闘争を続けているが、今や市場にも闘いを挑んでおり、これは危険だ。金融市場を攻撃しても、勝利できない」と警告する。

エルドアン氏と会った別のポートフォリオマネジャーは、エルドアン氏がある意味正直で、6月の選挙に勝てば金利は下がると明言したと指摘。「エルドアン氏の考えでは高金利は物価上昇につながる。私は同意しかねる」と話した。

エルドアン氏は投資家に発したメッセージと同じ趣旨の発言をブルームバーグのインタビューでも行っている。同氏は、中銀の独立性にお構いなく金融政策に影響力を行使すると明言した。

(Karin Strohecker記者)

[ロンドン 15日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中