最新記事

医療過誤

ホルマリンを点滴された女性、死ぬ──遺体の防腐処理に使う薬品が体内に

2018年4月10日(火)18時20分
デービッド・ブレナン

ロシアの医師は、誤ってとんでもないものを点滴した。病院の名は明かされていない sudok1/iStock.

<ごく普通の外科手術のために入院した女性は、生理食塩水の代わりにホルムアルデヒド水溶液(ホルマリン)を点滴され、痛みとけいれんに苦しみ始めた>

ロシアで、ホルムアルデヒドの点滴を受けた女性が死亡する医療事故が起きた。遺体の防腐処理に使うホルムアルデヒドを注入されたのだ。

英紙メトロによれば、亡くなったのは28歳のロシア人女性エカテリーナ・フェデヤヴァ。モスクワの病院で4月5日に死亡し、7日に埋葬されたが、刑事事件として捜査が始まっている。この医療過誤が起きたのは、モスクワの東およそ850kmにある都市ウリヤノフスク。フェデヤヴァはその後、モスクワに空路搬送されて緊急治療を受けた。

ホルムアルデヒドには有機物の腐敗を遅らせる効果があるため、防腐剤として使われている。また、布地のしわを防ぐほか、殺菌剤や、紙、織物、合板、建築資材の接着剤の材料として、産業でも用いられている。

報道によれば、フェデヤヴァが点滴を受けたのはホルマリンだった。ホルマリンはホルムアルデヒド濃度が37%の水溶液で、約30cc飲んだだけで大人も死に至る。

フェデヤヴァの母親ガリーナ・バリシュニコヴァの話では、フェデヤヴァはごく普通の外科手術のために3月15日に入院したが、生理食塩水の代わりにホルムアルデヒド水溶液を点滴され、2日間にわたって痛みとけいれんに苦しんだ末、昏睡状態に陥ったという。

52種類の薬も効果なし

ロシアのタス通信の報道によれば、フェデヤヴァは、モスクワにあるブルナシヤン連邦医学物理センターに空路搬送されて緊急治療を受けたが、多臓器不全で死亡した。治療にあたった医師たちは52種類もの薬を投与してフェデヤヴァを助けようとしてが、どれも効果がなかったという。

「娘は痙攣し、脚が動き、全身震えていた」とバリシュニコヴァは語った。「靴下を履かせ、ローブを着せ、毛布をかけたけれど、娘は言葉では説明できないほどひどく震えていた。娘は麻酔から覚めつつあったのに、医者は1人も来なかった」

ホルマリンが「娘を中からむしばんでいた」とバリシュニコヴァは言い、治療にあたった医師が娘を殺したのだと非難した。「娘の手術を行った人たちは、使ってはいけないものを点滴したことをわかっていた。すぐに処置しなければならなかったのに、何もしなかった」

医療スタッフに娘を助けてほしいと頼んだのに、家に帰るよう言われたとバリシュニコヴァは言う。「私をその場から追い出して、すべてを隠蔽したかったんだと思う」

タス通信は、ウリヤノフスクの保健相ラシード・アブドゥロフが、フェデヤヴァの親族に哀悼の意を伝えたと報じている。アブドゥロフはまた、フェデヤヴァはモスクワで治療を受けている最中に短期間意識を回復したものの、医師たちは助けることができなかったと説明した。

加えてアブドゥロフは、ミスは2分後に発覚し、スタッフがすぐにホルマリンの除去を試みたと述べた。医療過誤を起こしたスタッフたちは、内部調査のあと「解雇された」という。

この恐ろしい事故を起こした病院の名前は報じられていない。

(翻訳:ガリレオ)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

日米の宇宙非核決議案にロシアが拒否権、国連安保理

ビジネス

ホンダ、旭化成と電池部材の生産で協業 カナダの新工

ビジネス

米AT&T、携帯電話契約者とフリーキャッシュフロー

ワールド

韓国GDP、第1四半期は前期比+1.3%で予想上回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中