最新記事

アメリカ社会

新極右「オルト・ライト」も結局は低迷

2018年4月20日(金)19時00分
マイケル・エディソン・ヘイデン

17年8月のシャーロッツビルの集会で州警察と小競り合いを起こすスペンサー(中央) Chip Somodevilla/GETTY IMAGES

<トランプの大統領選勝利とともに拡大していた人種差別主義の極右勢力だが、カウンター勢力の活動と相次ぐ暴力沙汰で急失速>

「ハイル、トランプ!(トランプ万歳)」――男は部屋を埋めた聴衆にがなり立てた。「国民万歳! 勝利万歳!」

16年11月、米大統領選がドナルド・トランプの番狂わせの勝利に終わって程なく、リチャード・B・スペンサーは、ワシントンで白人至上主義者たちに熱弁を振るっていた。スペンサーは、白人ナショナリズムの新極右勢力「オルト・ライト」の名付け親とも言われている論客だ。

ネットに拡散された演説の模様は、多くのトランプ批判派が最も恐れていたシナリオを裏付けるものに思えた。トランプの登場が人種差別主義の極右勢力を勢いづけ、社会の主流に押し上げたように感じられた。

それから約1年半。3月のある日、スペンサーはミシガン州立大学で演説したが、聴衆の数はワシントンの演説よりはるかに少なく、スペンサーも意気が上がらないように見えた。

「真の運動になるには、今のような生みの苦しみを乗り越えなくてはならない」と、スペンサーは述べた。会場の外では、支持者が反差別活動家に数で圧倒されていた。

この日、最も衝撃的だったのは、そこに誰が来ていないかだった。まず、講演の実現に尽力した弁護士のカイル・ブリストウの姿が会場になかった。ブリストウはこれに先立ち、運動からの離脱を表明していた。

さらにスペンサーの盟友で、しばしばポッドキャストでユダヤ陰謀論を展開していたマイク・ペイノビッチ(通称マイク・イノク)もいなかった。やはり盟友のエリオット・クライン(通称イーライ・モズリー)は、イラク戦争への従軍に関して嘘を述べていた疑いが2月に報じられて以降、公の場に現れていない(クラインは本誌の取材要請に返答していない)。

スペンサーの演説を拡散する上で大きな役割を果たしてきたネオナチ系ウェブサイトのデイリーストーマーも、この講演を取り上げることを拒んだ。代わりに、映画のアカデミー賞を嘲笑する記事を大きく載せた。

潮目が変わった昨年夏

オルト・ライトはつまずき、社会の主流に受け入れられるには程遠い状況に見える。運動は内部分裂し、ネット上での存在感も小さくなった(ツイッターなどのオンラインサービスが、差別的な書き込みを理由にオルト・ライト系アカウントを凍結したためだ)。反差別活動家との暴力的な衝突により、マイナスのイメージが染み付いたと指摘する論者もいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、翌日にCPI控えポジショ

ワールド

トランプ政権、大麻を低リスク薬物に分類を検討 数週

ワールド

トランプ氏、中国関税一部停止を再度90日延長 大統

ワールド

次期FRB議長候補にボウマン・ジェファーソン副議長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入する切実な理由
  • 2
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客を30分間も足止めした「予想外の犯人」にネット騒然
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    なぜ「あなたの筋トレ」は伸び悩んでいるのか?...筋…
  • 7
    「靴を脱いでください」と言われ続けて100億足...ア…
  • 8
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 9
    「古い火力発電所をデータセンターに転換」構想がWin…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 5
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 7
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 8
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 9
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中