最新記事

映画

『ペンタゴン・ペーパーズ』抵抗の物語は今と重なる

2018年3月30日(金)18時30分
フレッド・カプラン(スレート誌コラム二スト)

「報道の自由」を守り抜く過程でグラハムはブラッドリーらと信頼で結ばれていく (c) TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

<男社会や政府の圧力と闘い、報道の自由を守り抜いた、女性経営者キャサリン・グラハムを描く>

「ペンタゴン・ペーパーズ」をワシントン・ポスト紙が公表した実話をスティーブン・スピルバーグが映画化――。このニュースを17年3月に知った際は少々戸惑った。ベトナム戦争に関する国防総省の7000ページに及ぶ最高機密文書を最初に入手して報じたのはニューヨーク・タイムズ(NYT)。その後、リチャード・ニクソン大統領の圧力により公表継続が困難になると、後を引き継いだのがワシントン・ポストだった。

だが、さすがスピルバーグ。歴史上のサイドストーリーに光を当てた『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は47年前の実話を基に、自由で気骨ある報道、司法の独立、男社会で発言し目的意識を見いだす女性といった、今こそ説くべき市民的美徳をたたえる作品に仕上がっている。

無名の新人リズ・ハンナがだめもとで送ってきた脚本を読んだスピルバーグはすぐ、ジョシュ・シンガー(『スポットライト 世紀のスクープ』)にリライトを依頼。17年5月末に撮影を始めて11月には編集を終えた。

本作の完成を最優先したのは、タイムリーで今こそやるべきテーマだと思ったからだ。ハリウッドで最も成功した映画監督は記念すべき30本目の長編に強烈なメッセージを込めた――ドナルド・トランプ大統領の時代に抵抗を呼び掛けているのだ。

71年、政府に幻滅した軍事アナリストのダニエル・エルズバーグは機密文書をコピーしてリーク、アメリカをベトナム戦争の泥沼に引きずり込んだ政府の無知と嘘を暴いた。これまで映画メジャーが手を出さなかったのが不思議なほどドラマチックな話で、切り口も豊富だ。

エルズバーグ本人、政府の圧力に屈せず報道した新聞社、法廷闘争の結果、言論の自由が勝利しアメリカのジャーナリズムが変貌するまで......。驚いたことに本作はその全てを追いつつ、一部は深く掘り下げてもいる。全体像はもちろん、細部まで事実を忠実に描いた点も見事だ。

働く女性の先駆者として

ワシントン・ポストはその頃、優秀な記者を抱えつつも一地方紙だった。編集主幹のベン・ブラッドリーはNYTに対抗すべく、全米での注目度を上げることに執念を燃やしていた。ニクソン政権の圧力でNYTが世紀のスクープを報道できなくなったとき、ブラッドリーはワシントン・ポスト(と自分)にとってメジャーになる恐らく最後のチャンスだと考えた。

ワシントン・ポストが機密文書のもう1部のコピーを入手した後、同紙の顧問弁護士や財務顧問が公表に反対したのも事実だ。彼らは社主で発行人のキャサリン・グラハムに対し、投資家が資金を引き揚げ、彼女とブラッドリーは刑務所行きになりかねないと警告した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀短観、景気は緩やかに回復との政府認識と齟齬ない

ビジネス

中国11月鉱工業生産・小売売上高は減速、予想も下回

ビジネス

日銀短観、大企業・製造業DIは4年ぶり高水準 利上

ビジネス

中国万科、18日に再び債権者会合 社債償還延期拒否
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中