最新記事

M&A

ダイムラー筆頭株主に躍り出た中国自動車メーカー吉利の「秘密工作」

2018年3月18日(日)20時14分


何重にも入り組んだペーパーカンパニー

今回の株取得においては、取引の構造が非常に複雑であるために、舞台裏で誰が資金を供給したかが判断しにくくなっている。

書類上、Tenaciou3は別の香港企業「Fujikiro Ltd」に所有されており、Fujikiroでは第3の企業である「Miroku Ltd」を取締役として登録している。公的な記録によれば、この両社の他の取締役はすべて国際的な法律事務所である金杜法律事務所のシニアパートナーである。

ロイターが閲覧した書類のいずれにも、李書福氏の名前は見当たらないが、彼はTenaciou3が保有するダイムラー株の所有者は自分であると公言している。

ペーパーカンパニーを投資ビークルとして用い、富裕な投資家の代わりに弁護士が取締役を務める手法はかなり一般化している。

金杜法律事務所はコメントを拒否している。

今回の株取引に詳しい吉利関係者によれば、ペーパーカンパニーが設立された理由の1つは「オフショア買収」取引のためであり、資金が中国本土から外国に移転するような取引に関して最近厳しさを増している中央政府の監視を免れるためだという。

吉利は、今回の株取引のための資金はすべて中国国外で調達されたものだと話しているが、業界コンサルタントらは、香港企業を使っているせいで、資金の調達先を検証することは困難になっているという。

吉利が直接傘下に置いている別のペーパーカンパニー「Tenaciou3 Investment Holdings Ltd」は、香港当局に提出された12月5日付の契約によれば、中国の興業銀行<601166.SS>香港支店から16億7000万ユーロ(約2200億円)の融資を受けている。

ダイムラーの提出書類によれば、Tenaciou3 Prospectをコントロールしているのは、李軼梵氏を取締役とするTenaciou3 Investment Holdingsであるとされている。

Tenaciou3 Investment Holdingsは、保有するTenaciou3 Prospect Investmentの株式を上記融資の抵当としている。

興業銀行との融資契約では、融資された資金の使途は明らかにされていない。

中国南東部の福州市に本社を置く興業銀行にコメントを求めたが、回答は直ちに得られなかった。

欧州外交評議会(ECFR)でアジア担当上級政策研究員を務めるアンゲラ・スタンツェル氏は、ドイツでもっぱら懸念されているのは、透明性の欠如だという。

スタンツェル氏はロイターの取材に対し、「問題は、どこから資金が出て、今回の株式取得が実際にどのように行われたのか、という点だ」と語った。

(翻訳:エァクレーレン)

Adam Jourdan and Norihiko Shirouzu

[上海/北京 2日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中