最新記事

戦争の記憶

メディアが単独で戦争の記憶をつくるのではない

2018年3月17日(土)16時25分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

Razvan-iStock.

<ある国の「戦争の物語」はどのように作られるのか。米コロンビア大学のキャロル・グラック教授が語る、記憶の形成に影響を及ぼす要因とは? 本誌3月13日発売最新号「戦争の記憶」特集より>

17年12月11日に行われた2回目の講義でキャロル・グラック教授は、「共通の記憶」の形成に影響を及ぼす要因をいくつか挙げた。そのうちのメディアと個人の記憶について、本誌ニューヨーク支局の小暮聡子がグラックに話を聞いた。

【参考記事】コロンビア大学特別講義・第1回前編:歴史問題はなぜ解決しないか
【参考記事】コロンビア大学特別講義・第1回後編: 「歴史」とは、「記憶」とは何か
【参考記事】コロンビア大学特別講義・第1回解説:歴史と向き合わずに和解はできるのか


――講義の中で、人々の記憶を理解する上でのメディアの重要性を指摘していた。戦争についての「共通の記憶」の形成に、メディアはどう影響しているのか。

この質問は、2つの意味で重要だ。まず1つに、これまでの世界中の研究から、人々が自国の過去について考える際にマスメディアというのは映画やビデオゲームなどと同じく、教科書以上に主要な情報源の1つであることが分かっている。戦争についての見方というのは、学校で習ったことより、最近見た映画や雑誌などを通じて知る議論に影響されやすい。

2つ目に、メディアは歴史を操作したり歪曲しているなどと批判されることが多いが、その際に、あたかもメディアが社会や政治や価値観の変化による影響を受けず、それらとは無関係に過去についてのイメージを自由に作り出しているかのように言われていることだ。

しかし実際には、メディアはこれらの理解の作り手であると同時にその産物でもある。メディアは言葉どおり、多くの場合は記憶の「ミディアム(伝達手段)」であって、記憶を操作するものではない。

一方でメディアが記憶に影響を及ぼす場合もあり、例えば80〜90年代の朝日新聞による慰安婦報道のように、メディアが社会的な主張を展開することがある。もう1つの例は、昭和天皇の存命中にはあるテーマについていわゆる「タブー」があって、自己検閲を行っていたということだ。

メディアそのものが細分化され、ソーシャルメディアが台頭している今日、メディアの影響力は集合体としての「マス」ではなく、自分と似通った考えを持つ閉ざされたコミュニティーにより届きやすくなっている。自分で選んだグループは他のグループとは対話しないため、戦争の記憶をめぐる分断は、多国間はもとより国内でも一層深まっていると言えるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

東エレク、通期純利益見通しを上方修正 期初予想には

ワールド

与野党、ガソリン暫定税率の年末廃止で合意=官房長官

ワールド

米台貿易協議に進展、台湾側がAPECでの当局者会談

ビジネス

中国製造業PMI、10月は49.0に低下 7カ月連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中