最新記事

中国政治

王毅外相「精日(精神的日本人)」に激怒――全人代第二報

2018年3月9日(金)14時15分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

全人代の記者会見における王毅外相(2018年3月8日) Jason Lee-REUTERS

3月8日、王毅外相は全人代における外交関係の記者会見を行なった。記者から出た「精日をどう思うか」という質問に声を荒げて「中国人の堕落者だ!」と激怒。精日とは何か、中国ではいったい何が起きているのか?

王毅外相激怒

3月8日、中国時間の午前10時から12時頃まで、王毅外相は全人代(全国人民代表大会)恒例の、外交問題に関する記者会見を行なった。

内外記者からの22個ほどにわたる質問に答えて、席を離れようとした瞬間の出来事だった。南京に本社がある「現代快報」の記者が大声で質問した。

「外相、外相! ここのところ"精日"分子が民族の最低ラインを越えた挑発を行なっていることを、あなたはどう見ていますか?」

既に質問を終了させて立ち上がっていた王毅外相は、この質問に激しく怒りだし、

「中国人の堕落者だ!」

と声を荒げて答えた。

いつものように、右手の人差し指を突き出し、顔は怒りに醜く歪み、吐き捨てるように言うと、会場を後にした。

動画にもあるのだが、うまくリンクできない場合は、この静止画面でご覧いただきたい。

精日(精神日本人)とは何か?

「精日」とは「精神的日本人」のことで、日本を礼賛し、日中戦争(中国では「抗日戦争」)時代の日本軍の軍服などを着て楽しむ中国の一部の若者たちのことを指す。

たとえば日本軍の軍服をまとった2名の男子が、愛国教育基地の一つである南京事件(中国では南京大虐殺)記念館の前で写真を撮り、警察に捕まって15日間拘留されたことがある。

2017年8月7日には、1937年10月の「四行(しこう)倉庫の戦い」(第二次上海事変における最後の戦い)の跡地で日本軍の軍服を着て撮った写真をネットに流して大問題になったこともある。

拘留では刑が軽すぎるとして、南京市弁護士協会と現代快報が主宰して、「精日」分子に対する刑罰を新たに設ける法律を制定すべきだとして、今般の全人代の代表にも呼びかけている。

なぜ「精日」が生まれたのか?

なぜ、このような現象が起きたかに関しては、いくつかの理由が考えられる。

1.拙著『中国動漫新人類――日本のアニメと漫画が中国を動かす』(2008年)で詳述したように、「80后(バーリンホウ)」(1980年以降に生まれた若者)たちは皆、日本のアニメと漫画を見て育ってきた。中でもコスプレが大好きで、侍姿などの歴史ものにも深い興味を持っている。その中から日本軍の姿も真似してみようという者が現れるようになった。

2.というのは、抗日戦争のドラマが粗製乱造され過ぎて、中には非現実的な場面などがあり、視聴者に媚びて娯楽性を持たせるものが多い。また、日本軍が中国人女性を犯す場面などは、女性が苦しむ場面を異様なほどエロチックにクローズアップして、抗日ドラマとはほど遠い画面になっている。結果、抗日を一種の娯楽とみなして、コスプレの対象に入れるような若者が現れはじめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中