最新記事

事件

イギリス政府、ロシア外交官23人を国外退去 元スパイ暗殺未遂受け

2018年3月15日(木)10時57分

 3月14日、英国のメイ首相は、23人のロシア外交官に国外退去を要請することを議会で明らかにした。写真はロンドンで同日撮影(2018年 ロイター/Parliament TV handout via REUTERS)

英国のメイ首相は14日、英南西部ソールズベリーで今月、元二重スパイのロシア人男性とその娘に軍用神経剤が使用された事件を巡り、23人のロシア外交官に国外退去を要請する方針を明らかにした。

米政府も英国の決定に支持を表明した。


この事件は、ロシアと英国の二重スパイだったセルゲイ・スクリパリ氏(66)と娘のユリア氏(33)が4日に意識不明の重体で見つかったもの。英当局者は、事件で使用された神経剤が1970─80年代に旧ソ連軍が開発した神経剤「ノビチョク」だったと特定した。

英国はロシアに対し事件についての説明を求めていたが、ロシアは関与を完全に否定。メイ首相は議会で、回答期限の14日深夜までにロシア側から信頼できる説明はなかったことを明らかにし、「ロシアの対応は、事件の深刻さを完全に軽んじる姿勢の表れ」と批判。「軍用神経剤が欧州で使用されたことに、皮肉や軽蔑を帯びた挑戦的な態度で応じた」と述べた。

その上で、スクリパリ氏に対する殺人未遂事件と、事件で使われた神経剤にさらされ重体となった警察官への被害の責任はロシア政府にあるとの結論以外は考えられないとした。「これはロシア政府による英国に対する違法な武力行使に相当する」と述べた。

メイ首相によると、国外退去となる23人の外交官は申告されていない情報部員で、1週間内に英国を離れる必要がある。1度の国外退去処分としては過去約30年間で最大規模で、ロシアの英国内での情報収集能力は長年にわたり阻害される。

メイ首相はこのほか、「英国民や英住民の生命や資産を脅威にさらすために利用される恐れがあるとの証拠」が得られた場合、ロシア政府の資産を凍結する方針も示した。

また、6―7月にロシアで開催されるサッカーのワールドカップ(W杯)に英国の閣僚、および英王室のメンバーは出席しないことも明らかにした。

ロシア外務省は英国の措置に対し、近く報復措置を発表することを明らかにした。

米ホワイトハウスは声明を出し、責任の所在はロシアにあるとした英国の判断やロシア外交官を国外退去とするメイ首相の決定を支持すると表明。

ヘイリー米国連大使は、国連安全保障理事会に対し、「即時にこの問題に対する具体策」を講じるよう求めた。

トランプ米大統領とメイ首相は13日に電話会談した際、ロシアが開発した化学物質が事件で使用されるまでの経緯について、ロシア政府は「明確に説明」する必要があるとの見解で一致していた。

ただ、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)のロシア専門家、マシュー・ブルゲ氏は、メイ首相が決定した措置は「強硬な対応ではなく、穏健だ」と指摘。「ロシアを抑止することにはならない」と分析した。

*内容を追加しました。。



[ロンドン 14日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中