最新記事

シリア情勢

シリア 弾圧に曝される市民に寄り添うフリをしてきた欧米諸国の無力と敗北

2018年2月28日(水)17時50分
青山弘之(東京外国語大学教授)

戦闘が激化する東グータ地方 Bassam Khabieh-REUTERS

ロシアとトルコが動くと、シリアのバッシャール・アサド政権は得をし、反体制派とロジャヴァは追い詰められる――イスラーム国が排除されたシリア情勢は、このように推移している。

トルコにとっての「テロリスト」とは

シリア国内でのロシアとトルコの軍事行動は「テロとの戦い」の論理に基づいて(自己)正当化されている。だが、両国にとって「テロリスト」とは異なった組織を意味する。

トルコにとっての「テロリスト」とは、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)、同党が指導する自治政体のロジャヴァ(西クルディスタン移行期民政局、ないしは北シリア民主連邦)、その武装部隊の人民防衛隊(YPG)や女性防衛隊(YPJ)、そしてこれらの部隊を主体とするシリア民主軍のことだ。トルコは、これらをクルディスタン労働者党(PKK)と同根の「テロ組織」とみなしている。

トルコは、「アラブの春」がシリアに波及した当初から、それが「クルドの春」に変容することに警戒していた。だが、シリア内戦に乗じて、PYDがユーフラテス川東部(ジャズィーラ地方)とアレッポ県北西のアフリーン郡(中心都市はアフリーン市)を実効支配するようになったことで、この懸念は現実のものとなった。

PYDがこの二つの地域を結節させ、シリア・トルコ国境地域全体を掌握することを回避するため、トルコは2015年8月から2016年3月にかけて「ユーフラテスの盾」作戦を敢行、アレッポ県北東部のユーフラテス川西岸のいわゆる「安全地帯」を事実上占領した。また、今年1月20日には「オリーブの枝」作戦の開始を宣言し、「飛び地」であるアフリーン郡への侵攻を本格化させた。

なお、クルド民族主義勢力に対する米国の姿勢は究極の二重基準だ。米国はPKKを1997年以来「外国テロ組織」(FTO)に指定する一方、シリア民主軍をイスラーム国に対する「テロとの戦い」で共闘する「協力部隊」とみなして全面支援している。

PYDについては、バラク・オバマ前政権が「テロとの戦い」のパートナーと位置づけていた。だが、ドナルド・トランプ米政権下の1月24日、中央情報局(CIA)は公式HPの内容を更新し、PYDをPKKの分派の「テロ集団」と位置づけた(拙稿「米国はシリア情勢をめぐって自らをテロ支援国家に指定?!」(Yahoo! Japan News個人、2018年1月29日)を参照のこと)。

トルコは「オリーブの枝」作戦を通じて、シリア全土で「テロリスト」を根絶すると凄んでいる。だが、目下のところはアフリーン市包囲をめざしており、米国が部隊を進駐させているアレッポ県東部のユーフラテス川西岸のマンビジュ市一帯、ジャズィーラ地方での本格作戦は念頭に置いてない(ようだ)。

MAGAZINE

特集:沖縄ラプソディ

2019-2・26号(2/19発売)

報道が過熱するほど見えなくなる沖縄のリアル 迫る県民投票を前にこの島を生きる人々の息遣いを聞く

人気ランキング

  • 1

    「売春島」三重県にあった日本最後の「桃源郷」はいま......

  • 2

    数百万人の「中年フリーター」が生活保護制度を破綻させるかもしれない

  • 3

    日本、オランダ、ついにアメリカも 培養肉の時代がやって来る

  • 4

    JKビジネスを天国と呼ぶ「売春」女子高生たちの生の声

  • 5

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

  • 6

    貧困家庭の女子が人生を見限る「自己選抜」......「…

  • 7

    【動画】子犬の「返品」を断られて激高し、殺してし…

  • 8

    いじめで「死ななかった子」と親を取材して分かった…

  • 9

    習近平が仕掛ける「清朝」歴史戦争

  • 10

    アップルの税逃れ拠点、アイルランドの奇妙な二重生活

  • 1

    13.48秒――世界最速の7歳児か 「ネクスト・ボルト」驚異の運動神経をNFL選手も絶賛

  • 2

    ホッキョクグマ50頭が村を襲撃、非常事態を発令

  • 3

    【動画】子犬の「返品」を断られて激高し、殺してしまった女性にネットが炎上

  • 4

    『ボヘミアン・ラプソディ』を陰で支えた、クイーン…

  • 5

    シロクマに包囲され逃げられないロシア観測隊、番犬…

  • 6

    「制服」少女たちが受ける不快すぎる性的嫌がらせ

  • 7

    地球温暖化で鳥類「血の抗争」が始まった──敵を殺し…

  • 8

    炎上はボヘミアン・ラプソディからダンボまで 韓国…

  • 9

    アリアナのタトゥー炎上と日本人の「不寛容」

  • 10

    南極の氷河の下に巨大な空洞が発見される

  • 1

    13.48秒――世界最速の7歳児か 「ネクスト・ボルト」驚異の運動神経をNFL選手も絶賛

  • 2

    ホッキョクグマ50頭が村を襲撃、非常事態を発令

  • 3

    【動画】子犬の「返品」を断られて激高し、殺してしまった女性にネットが炎上

  • 4

    インドネシアの老呪術師が少女を15年間監禁 性的虐…

  • 5

    小説『ロリータ』のモデルとなった、実在した少女の…

  • 6

    『ボヘミアン・ラプソディ』を陰で支えた、クイーン…

  • 7

    エロチックなR&Bの女神が降臨 ドーン・リチャードの…

  • 8

    口に入れたおしゃぶりをテープで固定された赤ちゃん

  • 9

    恋人たちのハグ厳禁! インドネシア・アチェ州、公…

  • 10

    シロクマに包囲され逃げられないロシア観測隊、番犬…

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
「ニューズウィーク日本版」編集記者を募集
デジタル/プリントメディア広告営業部員を募集
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2019年2月
  • 2019年1月
  • 2018年12月
  • 2018年11月
  • 2018年10月
  • 2018年9月