最新記事

カーリング

物理学者もお手上げ、カーリングの原理

2018年2月26日(月)18時00分
ジャニサ・デルゾ

イギリスとの3位決定戦でストーンを投げる日本代表の藤沢五月 John Sibley-REUTERS

<カーリングのストーンはなぜあのように曲がるのか。他の物体と違うことはわかっているが、理由はまだわからない>

ピョンチャン(平昌)冬季オリンピックのカーリング男子の表彰式では、優勝したアメリカ代表チームが表彰式で「女子カーリング」と書かれた金メダルを手渡される、という手違いがあった。だがカーリングにははるかに大きな驚きが秘められている。科学者さえ解明できない謎だ。

カーリングをよく知らない人のためにルールを簡単に説明すると、カーリングは1チーム4人で対戦し、両チームの選手が交互に長方形の氷上にストーン(石)を滑らせる。約40メートル先の「ハウス」と呼ばれる同心円の中心のより近くへ、より多く石を入れることができたチームが勝利する。カーリングという名称は、ストーンが氷上を滑る時、ボウリングの球がレーンを転がる時のように回転(カール)するのに由来する。

一体なぜ、大きさ直径約30センチ、重さ約20キロのストーンが、選手がブラシで氷の表面をこすることで狙った方向に曲がるのか。いまだに謎のままだ。

「異質なものほど人は興奮する。ストーンはその典型だ」と、カナダのバンクーバーアイランド大学の天文物理学者でスポーツ物理学を研究したレイ・ペナー教授は、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに語った。

ストーンが他の物体と決定的に違うのは、回転と同じ方向に曲がることだ。例えば料理用のボウルを伏せて滑らすとどうなるか。動画で見る通り、反時計回りに回転させると右に曲がる。だがストーンは反時計回り(左回転)に回転をかけると左に、時計回りなら右に曲がる。なぜか。説明を試みた理論は多数存在する。

(この動画を見ると、ボウルはストーンが他とは逆回転なのがわかる)


中世からの謎

そのうちの1つ、「スティックスリップ摩擦論」は、氷上に広がる無数のペブル(氷の粒)に注目した。これを提唱した物理学者たちは、ストーンの底がペブルに接して生じた摩擦力に左右差が生じる結果、摩擦力の大きい方を軸にして回転方向と同じ方向に曲がる、と主張する。数学的な理論だが、全員が賛成というわけではない。この理論の提唱者は、回転速度に関わらずストーンは同じように曲がると言っているからだ。

もし「スティックスリップ摩擦論」が正しいなら、ストーンの回転が速いほど大きく曲がるはずだ、と航空宇宙学の元エンジニアであるマーク・デニーはウォール・ストリート・ジャーナルに語った。

「なぜストーンが曲がるのかに関して、自分も似たような理論を思いついたことがあるが、同様の理由で行き詰まった」と、デニーは言った。

もう1つの理論は、ストーンが氷と接触するのは底にある幅数ミリの輪の部分だけ、という点に注目。氷上を滑る際、輪の前方の部分は氷の表面に小さなかき痕を作りながら進む。その痕にストーン後方が誘導されていく結果、ストーンが回転方向と同じ方向に曲がる、と説明する。

カーリングは15~16世紀頃発祥といわれる古いスポーツだが、科学者たちはまだ、ストーンがなぜ曲がるのかという単純な理屈ひとつわかっていない。

カーリングの選手は、理論的に説明できないものをどうコントロールしているのだろう?

(翻訳:河原里香)

【訂正】本文中に「ボウリングの球」とあったのは、「(料理用の)ボウル」の誤りでした。お詫びして、訂正します。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダ、ウクライナ支援継続を強調 両首脳が電話会談

ワールド

トランプ米大統領、ハーバード大への補助金打ち切り示

ビジネス

シタデルがSECに規制要望書、24時間取引のリスク

ワールド

クルスク州に少数のウクライナ兵なお潜伏、奪還表明後
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中