最新記事

平昌五輪

平昌五輪で平和攻勢かける北朝鮮、邪魔するアメリカ

2018年2月8日(木)20時00分
トム・オコナー

2月8日に平壌で行われた軍事パレード。朝鮮中央テレビの録画放送を韓国・聯合通信の動画ニュースが報道 YonhapnewsTV/YOUTUBE

<核保有を認めてもらおうと韓国に平和攻勢をかける北朝鮮、そうはさせじと副大統領を送り込むアメリカ、平昌の見物はスポーツだけじゃない>

北朝鮮選手団と応援団を迎えたオリンピックが明日2月9日、韓国の平昌で幕を開ける。今年の元旦、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が突然、代表団を送る用意がある、と言ったときから、平昌冬季五輪は熱い外交の舞台と化した。南北朝鮮が勝手に対話ムードで盛り上がるのを防ぐため、アメリカはマイク・ペンス副大統領を派遣。日本の安倍晋三首相と結束を誇示した上で韓国に乗り込む。北朝鮮、韓国、アメリカの平昌をめぐる思惑をまとめておこう。

webw180208-nk02.jpg
2月7日に韓国に到着した北朝鮮の美女応援団 Ahn Young-joon-REUTERS

金正恩の韓国に対する平和攻勢は、平昌を口実に使うことである程度は成功した。対話の条件として核・ミサイル開発の放棄を要求するアメリカを軟化させるのには失敗したが、朝鮮中央通信も「朝鮮半島の非核化を問題にする時期は過ぎ去った」という立場だ。「DPRK(北朝鮮)の核兵器保有国としての戦略的地位を認めたうえで、今こそ我々との関係正常化を議論すべき時だ。非核化を議論する場合ではない」

北朝鮮は長年にわたり、アメリカからの攻撃を抑止するため核開発に突き進んできたが、この1年間だけで、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射能力を誇示し、水爆実験を強行し、核大国になったと宣言するまでになっている。

ドナルド・トランプ米大統領は昨年4月以降、若き金正恩を挑発して威嚇の応酬を繰り広げ、乱暴な言葉で互いの国を脅してきた。金正恩が新年の辞で韓国との対話姿勢を示したことで、米朝関係の緊張はいったん収まるかに見えた。だが南北が約2年ぶりに軍事ホットラインを再開し、2月9日に開幕する平昌オリンピック関連の合同行事に合意しても、米朝関係はすぐに険悪に逆戻りした。

アメリカが送り込んだ「刺客」

マイク・ペンス米副大統領が平昌オリンピックの米代表団の代表になったことを、北朝鮮は批判した。アメリカがペンスに白羽の矢を立てたのは、北朝鮮が「オリンピックのメッセージを乗っ取って」核保有を正当化するのを断固阻止するためだと言われている。だが北朝鮮は、ペンスこそ平和のオリンピックを「対立の舞台」にしかねないと非難する。

webw180208-nk01.jpg
開会式に出席予定の金正恩の実妹、金与正(キム・ヨジョン)。金一族の肉親が公式に韓国の地を踏むのは初めて Damir Sagolj-REUTERS

トランプ政権が北朝鮮の核関連施設などを限定先制攻撃して機先を制す「ブラッディ・ノーズ(鼻血)」作戦を検討中、とする報道にも、北朝鮮は猛反発している。ただしこの作戦をめぐっては、トランプ政権内や専門家の間でも意見が対立しているようだ。1年以上空席が続く駐韓米大使の有力候補だった北朝鮮専門家、ビクター・チャは、この作戦に否定的だったために自分は指名を外された、とする見方を示した。

北朝鮮は格別の影響力を持つとされる金正恩の実妹、金与正(キム・ヨジョン)と高位級代表団を、平昌オリンピックに合わせて韓国に派遣すると発表し、ドナルド・トランプ米大統領が言う「最大限の圧力」より対話重視の韓国もこれを歓迎した。北朝鮮は数百人の美女応援団と楽団も韓国に送り込んだ。

そして明日に平昌オリンピック開幕を控えた2月8日。故金日成主席による朝鮮人民軍の創建記念日だとして、恐れられていた軍事パレードを北朝鮮が行った。だが、パレードの規模は予想されたほどではなく、生放送もされなかった。これは、非核化はいやだが本気で平和を望んでいる、という北朝鮮のメッセージなのか。アメリカはそれをどう受け止めるのか。明日からの外交ゲームの展開を見守ろう。

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

原油先物7%超安、イランが米軍基地攻撃も原油輸送は

ワールド

米国務長官、中国にイランへの働きかけ要請 ホルムズ

ビジネス

米国株式市場=上昇、FRB当局者の利下げ発言を好感

ワールド

米下院議長、対イラン軍事制限法案の採決拒否 米軍基
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中