最新記事

インドネシア

Xmasのジャカルタは厳戒態勢 知事のせいで反キリスト教の火に油

2017年12月22日(金)14時15分
大塚智彦(PanAsiaNews)

クリスマス~年末年始の行事が多いジャカルタの独立記念塔広場を警戒する武装警官 Beawihart-REUTERS

<宗教間の扱いを公平にしようと思った多数派イスラム教徒の知事がクリスマス行事に介入しようとしたことからボタンの掛け違いが>

インドネシアの首都ジャカルタはクリスマス、年末年始を迎えるにあたり、首都圏警察が警察官、爆発物処理班など約1万人を動員して厳戒態勢に入る。特にキリスト教の教会や関連施設の周辺は常時警察官が張り付くほか、巡回警備も実施する方針で、爆弾テロ、火炎瓶攻撃や聖職者襲撃などの不測の事態を警戒する。

これは12月18日、首都圏警察の報道官が明らかにしたもので12月23日から2018年の1月2日までの間を「特別警戒警備期間」として最高度の警戒態勢に入るとしている。

世界最大のイスラム教徒人口(約2億5000万人の人口の89%)を擁するインドネシアだが、国民の約10%はキリスト教徒である。

そのキリスト教徒にとって重要なクリスマスイブ、クリスマスなどの宗教行事は例年、急進的なイスラム教徒による抗議、反対運動、さらに中東のイスラムテロ組織「イスラム国(IS)」信奉者やインドネシア国内のイスラムテロ組織メンバーなどによる襲撃やテロの対象となることがあった。

このため、例年警戒が強化されるのが通例で、今年は約1万人の警察官による厳戒態勢となった。

独立記念広場使用を拒否

今年の厳戒態勢の背景には、イスラム教徒を中心とする支持者の票を得て10月にジャカルタ特別州知事に就任したアニス・バスウェダン知事のある方針が影響している。

アニス知事はジャカルタの中心部、大統領官邸の南に位置する独立記念塔(モナス)広場をこれまで禁止されていた「宗教関連行事での使用」を許可した。これにより、イスラム教団体などが堂々と同広場で宗教関連行事、集会を開催できるようになった。米トランプ政権によるイスラエルの首都認定問題に抗議するイスラム教組織の大規模集会も、12月17日にこの広場で行われた。

アニス知事側はイスラム教団体ばかりに同広場の使用を許可していてはキリスト教やヒンズー教、仏教など他の宗教との公平性を欠く可能性があるとしてキリスト教団体にクリスマスの関連行事を同広場で開催するよう求めていた。

ところが申し出を受けたインドネシアのキリスト教団体をまとめるインドネシア教会連合(PGI)がこれに反対、事実上の拒否声明を出したことから関係がこじれてしまった。

アニス知事の支持母体は中心がイスラム教団体で、このキリスト教組織の「申し出拒否」方針が伝わるとイスラム教団体の中でキリスト教組織への不満や反発が高まる事態になった。

こうした交渉の経緯を察知した警察側が「不測の事態」を警戒して厳しい警戒態勢を打ち出すことになったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用4月17.7万人増、失業率横ばい4.2% 労

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と6日に初対面 「困難だが建

ビジネス

デギンドスECB副総裁、利下げ継続に楽観的

ワールド

OPECプラス8カ国が3日会合、前倒しで開催 6月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中