最新記事

中国政治

中国「民主村」は今 監視と密告に口つぐむ住人たち

2017年11月25日(土)10時57分

11月10日、一度は当局によって民主的な選挙の実施が認められた中国広東省の烏坎(ウカン)村だが、昨年、治安部隊によって抗議活動は制圧され、選挙で選ばれた村長らは身柄を拘束されるか、辞任するなどした。それから1年、ロイターはいまもなお息詰まる厳重な監視下にある烏坎村の現状を取材することに成功した。写真は烏坎村で警戒にあたる治安部隊。昨年撮影(2017年 ロイター/James Pomfret)

かつて「民主村」と呼ばれた中国南部広東省の烏坎(ウカン)村だが、今では、あらゆる幹線道路に設置された監視カメラが住民の動きを見張っている。

住民によると、あちこちに当局の密告者がおり、数十人の村民が刑務所や拘置所で厳しい獄中生活を送っている。

この村は2011年、草の根運動によって民主的な選挙を中国当局に認めさせたことで、世界的に知られるようになった。しかしその後、当局が土地強制収用を巡る抗議運動を制圧し、運動を主導したリーダーを投獄した。それから1年経てもなお、息詰まる厳重な監視下にある。

ロイター取材班は今回、この村を訪問する貴重な機会を得た。村民数人と村の現状に詳しい関係者とのインタビューを通じて、烏坎村とその周辺一帯に敷かれた厳戒態勢と、何としても治安維持を図ろうとする中国政府の強硬な姿勢が浮き彫りになった。

かつてメディアを温かく歓待していた村民たちが、いまでは報復を恐れ、口を開くものはほとんどいない。

「この村にはもう何も残されていない」と村の若い男性が語った。神経質な様子で、長く言葉を交わそうとはしなかった。「何が起きたか知っているだろう」と言い残すと、彼は足早に立ち去った。

関係筋によると、100人の専属職員を擁する「烏坎村の大規模作業部会」が省レベルで設立された。密告者やパトロール部隊を組織し、監視カメラや投光照明を配備することにより、村の「安定」を維持しようとするものだ。

中国政府は1980年代、国内の村々で選挙実施を許可し始めた。とはいえ民主活動家らは、そうした村の役職を決める選挙のほとんどが当局の干渉を受けていたと指摘する。

2011年、烏坎村で繰り広げられた地元当局に対する相次ぐ抗議運動によって、ついに当局が折れ、自由で開かれた選挙を認めた。これによりこの村は「民主の村」として、中国における民主主義の希望の星となった。

しかし、いまや烏坎村は、中国当局による市民社会や個人の権利に対する締め付けに屈してしまった。2011年当時、村の抵抗運動を率いていた指導者の1人だったZhuang Liehong氏はそう嘆く。

「烏坎村で起きていることは、中国全土で起きていることだ」とZhuang氏は語る。「表現の自由や個人の権利がない、中国の暗部を映し出している」

ロイターは広東省政府にファックスで質問を送ったが、回答はなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領、和平交渉は「現在の前線」から開始

ワールド

プーチン氏の和平案、ウクライナ東部割譲盛り込む=関

ワールド

イスラエルで全国的抗議活動、ハマスとの戦闘終結求め

ビジネス

FRB、年内2回の利下げなお適切=サンフランシスコ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 9
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中