最新記事

アルツハイマー

「アルツハイマー病は脳だけに起因する病気ではない」、研究結果が明らかに

2017年11月3日(金)11時00分
松岡由希子

iLexx-iStock

<アルツハイマー病を引き起こすタンパク質のひとつ「アミロイドβ」は脳組織で生成されるものと考えられてきたが、脳以外で生成されたものも原因になりうることが明らかになった>

アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)は、特殊なタンパク質が脳の中に蓄積し、正常な神経細胞を変化させることで、脳の働きを低下させたり、萎縮を進行させたりする脳疾患だ。

従来、その原因となるタンパク質のひとつ「アミロイドβ」は脳組織で生成されるものと考えられてきたが、このほど、脳以外で生成されたものもアルツハイマー病を引き起こしうることが明らかになった。

「アミロイドβ」が脳内に入り込み、蓄積し、神経細胞の機能を損なわせる

カナダのブリテッシュ・コロンビア大学(UBC)と中国の第三軍医大学との共同研究プロジェクトは、2017年10月31日、医学専門誌『モレキュラー・サイカイアトリー』において、血液循環から生成された「アミロイドβ」が脳内に入り込み、蓄積し、神経細胞の機能を損なわせることを示す研究結果を発表した。

「アミロイドβ」は、脳組織だけでなく、血小板や血管、筋肉でも生成され、他の器官にもみられるものだ。そこで、研究プロジェクトでは、アルツハイマー病にかかっていない正常なマウスと、遺伝子改変によって「アミロイドβ」を生成する突然変異のヒト遺伝子を持つマウスとを、「パラバイオーシス」と呼ばれる手法を通じて外科的に結合し、循環系を1年にわたって共有させた。その結果、正常なマウスがアルツハイマー病に罹患。遺伝子改変されたマウスから正常なマウスの脳に「アミロイドβ」が輸送され、蓄積し、損傷を与えはじめたものと考えられている。

アルツハイマー病を理解するために身体のすべてに目を向ける

研究プロジェクトの一員であるウェイホン・ソン教授は、「アルツハイマー病は明らかに脳の病気だが、それがどこからやって来て、どのように止めることができるのかを理解するためには、身体のすべてに目を向ける必要があることを、この研究結果は示している」と指摘。

また、「血液と脳の組織液との間の物質交換を制御する『血液脳関門』は、加齢に伴って弱くなる。これによって、より多くの『アミロイドβ』が脳に浸潤し、脳で生成されている『アミロイドβ』と相まって、アルツハイマー病の進行を加速させる可能性がある」と考察している。

肝臓や腎臓に働きかける治療法

この研究結果は、脳に直接作用させることなく、アルツハイマー病の進行を止めたり、遅らせたりできる新たな治療法への糸口としても注目されている。研究プロジェクトでは、複雑で傷つきやすく、標的にしづらい脳の代わりに、薬物を通じて、肝臓や腎臓に働きかけ、「アミロイドβ」など、毒性のあるタンパク質を脳に到達する前に除去するような治療法などがすでに構想されているという。

認知症の人は、世界全体でおよそ4700万人にのぼり、日本でも、2012年時点で、462万人が認知症患者であると推計されている。この研究結果は、認知症を引き起こすもののうち最も多い疾患であるアルツハイマー病の治療法の発展に、少なからず寄与しそうだ。


alzheimer.jpg
ニューズウィーク日本版特別編集
最新版アルツハイマー入門

最新サイエンス 発症した家族・友人とどう接するか
高齢化アメリカの介護の現実と大胆対策

2017年9月29日発売/816円(税込)






*上の画像をクリックすると外部の販売サイトが開きます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政府、ベネズエラ産原油輸送船舶のさらなる拿捕も準

ビジネス

日銀には、物価目標実現に向け適切な政策運営期待=城

ワールド

ウクライナ巡り欧州で週末協議、トランプ氏「進展なら

ワールド

米ビザ免除制度のSNS情報提出義務付け案、観光客や
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 3
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 4
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 5
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 6
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 7
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 8
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 9
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中