欧州が恐れる「融和のメルケル時代」終わりの始まり
9月26日、欧州各国は、ドイツの総選挙結果を受けて、リスク回避志向で内向きのドイツが復活するのではないかと危惧している。写真はメルケル独首相。27日、ベルリンで撮影(2017年 ロイター/Fabrizio Bensch)
2008年、グローバル金融危機に対するドイツの慎重な対応に腹を立てた当時のフランス大統領サルコジ氏は、メルケル首相に食ってかかった。
「フランスが行動しているのに、ドイツはどう行動するかをただ考えているだけだ」とサルコジ氏は毒づいた。
それから10年近くたった今、欧州各国は、リスク回避志向で内向きのドイツが復活するのではないかと危惧している。24日に実施されたドイツ連邦議会(下院)選挙によってメルケル首相の立場が弱体化し、極右政党による連邦議会への初進出を許したからだ。
「欧州各国の首都にいる者は皆、心配そうに見つめている」と語るのは、ロンドンのシンクタンク、王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)のロビン・ニブレット所長だ。「メルケル首相が融和的な立場をとり、欧州の前進に向けてリーダーシップを担う余裕は乏しくなった」
2008年当時は、急速に進展する金融危機の複雑さと、大規模な景気刺激策に対する反感が、メルケル首相を慎重にさせた。今回は国内の政治情勢がその引き金になりそうだ。
フランスのマクロン新大統領が、欧州再編に向けてメルケル首相に協力を呼びかけ、英国とのブレグジット交渉が修羅場を迎えるなか、同首相は今後数カ月にわたり、行き詰る可能性もある困難な連立交渉に直面することになる。
企業寄りの自由民主党(FDP)と、環境保護主義を掲げる緑の党との3党連立を、メルケル首相がまとめ上げることができたとしても(当面その選択肢しかないわけだが)、現政権に比べて安定性の低い構造になることはほぼ確実だろう。
この新たな連立政権は、国政の場で現在よりも対決色の強い野党と対峙することになる。その筆頭は、険悪な雰囲気で連立から離脱する社会民主党(SPD)、そして半世紀以上ぶりにドイツの国政に戻ってきた極右政党である「ドイツのための選択肢」(AfD)だ。
メルケル首相率いる保守派の得票率39.2%は1949年以来の最低水準であり、その後退とAfDの台頭は、同首相が2015年、ドイツに数十万人の難民を受け入れることを決断したことの結果である。
この決断は党内におけるメルケル氏の立場を脆弱化し、バイエルン州における友党、キリスト教社会同盟(CSU)を動揺させた。24日の連邦議会(下院)選挙では、CSU支持票がAfDに流れた。
首相にとって、CSUが、FDPや緑の党以上に気難しい連立相手になる可能性が高い。
「極右政党が連邦議会に進出したことに対する責任は、メルケル首相にある。これは言わば同首相に対する告発だ。明らかに、彼女の立場は弱まるだろう」とニブレット所長は言う。