最新記事

中国が北朝鮮を見捨てる日

中国・北朝鮮「相互防衛」の誓いにもはや意味はない

2017年9月26日(火)16時46分
アンキット・パンダ

中朝友好条約に調印する金日成(左)と周恩来(1961年) GAMMA-KEYSTONE/GETTY IMAGES


171003cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版9月26日発売号(2017年10月3日号)は「中国が北朝鮮を見捨てる日」特集。金正恩の暴走は習近平にとっても厄介な問題だが、血の同盟が決裂したとき、いったい何が起こるのか。この特集から、56年前に両国が調印した中朝友好条約に関する記事を転載する>

中国共産党機関紙系の新聞「環球時報」が8月に意味深長な社説を掲げた。仮にも北朝鮮が「先にミサイルを発射して米国の領土を脅かし、米国が報復した場合、中国は中立を保つだろう」とあった。米紙ワシントン・ポストはこれに注目し、要するに一定の条件下では中国も「北朝鮮を助けてやらない」という意味だと指摘した。

ありそうなことだ。56年前、北朝鮮の建国の父・金日成と中国の初代首相・周恩来は中朝友好協力相互援助条約に署名した。今なお有効なこの条約の第2条に、相互防衛の規定がある。北朝鮮が他国から攻撃されたら中国は助けに行く、その逆もしかり。念のために条文を引用すればこうだ。

「両締約国は共同で全ての措置を取り、いずれか一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国または同盟国家群から武力攻撃を受け、それによって戦争状態に陥ったときは、他方の締約国は直ちに、持てる限りの総力を挙げて軍事的その他の支援を行うものとする」

この条約は、中国が北朝鮮を支援した朝鮮戦争の記憶が新しく、北朝鮮が今より貧しく弱かった時代に締結された。それから50年以上を経た今、北朝鮮はICBM(大陸間弾道ミサイル)による攻撃力を手に入れるまでになり、それが究極の敵すなわちアメリカに対する抑止力になると確信している。

この間、北朝鮮はアメリカの同盟国である日本と韓国の首都を脅かすことを目的とする一連の短・中距離弾道ミサイルも開発してきた。一方で、中国と北朝鮮の関係は悪化を続け、中国にとっての北朝鮮はもはや(重要なパートナーではあることは確かだが)最も近しい外交上のパートナーではなくなっている。

あまり注目されていないが、実を言うと中国側は中朝友好条約について重要な解釈変更を行っている。冒頭に引いた環球時報の社説も、2010年後半に行われたとされるこの解釈変更に依拠している可能性が高い。

韓国の李明博(イ ・ミョンバク)元大統領の回顧録によると、中国の北朝鮮政策の要であった戴秉国(タイ・ピンクオ)国務委員は、この解釈変更を伝えるために平壌を訪れている。そして「北朝鮮が韓国を先制攻撃し、その結果として本格的な武力衝突が起こった場合は、中国が北朝鮮を支援することはないだろう」と警告したという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中、TikTok巡り枠組み合意 首脳が19日の電

ワールド

米政府、16日に対日自動車関税引き下げ

ワールド

トランプ氏、メンフィスで法執行強化 次はシカゴと表

ワールド

イスラエルのカタール攻撃、事前に知らされず=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中