最新記事

金融

日欧米の中央銀行よ、本来の任務に立ち返れ

2017年9月20日(水)12時00分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター所長)

発足当初のECBは困難な状況に直面しても時制が利いていた Krisztian Bocsi-Bloomberg/GETTY IMAGES

<デフレ懸念という風車と戦うドン・キホーテよろしく、ずるずると金融緩和を続けるのはおかしい>

主要国の中央銀行総裁らを集めて、毎年夏に米ワイオミング州ジャクソンホールで開催されるジャクソンホール会議。今年のテーマは何と「ダイナミックなグローバル経済の育成」というものだった。

これは重要なテーマではある。しかし6月下旬に開かれたECB(欧州中央銀行)の年次フォーラムでも、金融政策はそっちのけで「先進国における投資と成長」が論議されたとなると違和感を抱かざるを得ない。

中央銀行の総裁が成長や投資といった問題を論じるのは悪いことではない。だが中央銀行の独立性が担保されているのは、独自の目的があるからだ。それは「物価の安定」。それなのになぜ主要国の中央銀行総裁らが、がん首そろえて管轄外の問題を話し合うのか。自分たちの現在の金融政策をうまく説明できないから――どうやらそれが答えらしい。

今の条件下で、金融政策の運営は難しくないはずだ。特にECBは発足当初よりはるかに恵まれた状況にある。

99年1月にユーロ圏が誕生すると、ECBはその金融政策を一手に担うようになった。当時は97年のアジア通貨危機と98年のロシアのデフォルト(債務不履行)の余波で、世界の金融市場は大荒れに荒れていた。

株式市場の先行きに対する投資家の不安レベルを示すVIX指数(別名「恐怖指数」)は、現在は12前後だが、98年8月には44に達し、ユーロ導入後の数年間は16~45で推移していた。ユーロ圏の発足当初、失業率は低下傾向ながら10%近くにあり、99年は年間を通じて現在の9.3%よりも高かった。

【参考記事】仮想通貨バブルを各国中央銀行は警戒せよ

「正常化」に舵を切れ

金融政策の観点からは、金融危機の負の遺産であるデフレ懸念に対処する必要があった。99年当時、インフレ率は2%に届かず、消費者物価指数の前年同月比は1%前後。金融政策にとって重要なこの2つの指標は現在のレベルとほぼ同じだが、金融市場は当時のほうが今よりはるかに混乱していた。

つまり、99年にはインフレ率が目標よりやや低く、失業率は現在より高く、投資家心理は冷え込んでいた。にもかかわらず、ECB理事会は量的緩和やゼロ金利を検討しなかった。発足後最初に発表した主要政策金利は2%だ。

その後、経済の悪化に伴い1.5%まで引き下げられたものの、低金利政策は数カ月しか続かず、99年末には再び2%に引き上げられた。翌00年後半にはインフレ率の上昇はごくわずかだったが、ECBは政策金利を3.75%に引き上げた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:政策パスで日銀「布石」の思惑、タカ派利上

ビジネス

ドイツ景気回復、来年も抑制 国際貿易が低迷=IW研

ビジネス

イケア、米国内の工場から調達拡大へ 関税で輸入コス

ビジネス

金融政策で金利差縮めていってもらいたい=円安巡り小
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 8
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 9
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中