最新記事

ヘイトスピーチ規制

ドイツが見いだしたヘイトとの戦い方

2017年9月9日(土)13時00分
べサニー・アレン・イブラヒミアン(フォーリン・ポリシー誌記者)

ネオナチの集会は厳しい規制の下で行われるが、それでも市当局や州当局はしばしば集会を禁止している。今回のシュパンダウの集会も禁止すべきだったという意見もある。「極右過激派勢力が町を練り歩くことを許したのは......嘆かわしい」と、地元選出のカイ・ウェグナー連邦下院議員は地元紙に語った。

「ウンジーデル(バイエルン州)では、このルドルフ・ヘス記念行進なるものを05年以降禁止しており、その決定は連邦憲法裁判所にも支持されている」

アメリカ人の中には、ヘイトスピーチ(マイノリティーなどに対する憎悪表現)を法律で規制すれば民主主義を脅かすことになると考える人が多い。だが、ほぼあらゆるヘイトスピーチをほぼ無制約に許すアメリカ流の言論の自由は、世界的には「例外中の例外」だと、米ミドルベリー大学のエリック・ブライシュ教授(政治学)は言う。

「ドイツ、オーストリア、イタリア、多くの東欧諸国など、第二次大戦直後にナチスのシンボルを掲げることを法律で禁じた国は多い」と、ブライシュは言う。「ホロコースト(ナチスのユダヤ人大虐殺)を否定する言論を禁じている国も多い。人種憎悪をあおる言論を禁じる国は、さらに多い」

アメリカでも、8月中旬にバージニア州シャーロッツビルで起きた事件をきっかけに差別主義との向き合い方が議論になっている。しかし、ヘイトスピーチを制限するのは是か非かという議論は、ドイツ人にとっては理解し難いものだ。ベルリンでもハンブルクでも、アメリカが白人至上主義者の差別的な発言を法律で禁止しようとしないことに納得できない人が多かった。

もっとも、ドイツがヘイトスピーチを規制していることで過激思想の拡散を防げているかという点は、意見が分かれている。シュパンダウで掲げられていたシンボルは外国人の目には謎めいて見えたが、ドイツ人が見れば、ネオナチの集会であることは一目瞭然だった。

【参考記事】ポートランドでヘイト暴言への抗議に痛ましい代償

反差別の市民が大勢集結

ヘイトスピーチ規制反対派がよく指摘するのは、規制をすればむしろ反発を招き、運動の規模と激しさが増大する恐れがあるということだ。

説得力がありそうな主張にも思えるが、ドイツで実際にそういうことが起きているかははっきりしない。この2年ほど、アメリカとヨーロッパの多くの国で極右の台頭が目立つなか、ドイツの最も新しい極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、9月の総選挙を前に支持率が1桁台に低迷している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米百貨店コールズ、通期利益見通し引き上げ 株価は一

ワールド

ウクライナ首席補佐官、リヤド訪問 和平道筋でサウジ

ワールド

トランプ政権、学生や報道関係者のビザ有効期間を厳格

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部に2支援拠点追加 制圧後の住
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 7
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 10
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中