最新記事

映画

中国版『ランボー』は(ある意味)本家を超えた

2017年8月31日(木)11時20分
長岡義博(本誌編集長)

ド派手な戦闘シーンが続く『戦狼2』に映画的な深みはない Wolf Warrior 2-Official Trailer-YOUTUBE

<中国で大ヒットのアクション映画『戦狼2』が、あり得ない設定で描き出す「等身大の中国」>

中国映画といえば、社会問題や歴史を扱った芸術肌の監督による重厚な作品というのが世界の共通認識だった。張芸謀(チャン・イーモウ)の『紅いコーリャン』、あるいは賈樟柯(ジャ・ジャンクー)の『プラットホーム』といった名作が各国の映画賞を次々と獲得。そこに描かれる中国は嘘や偽りのない「等身大の中国」で、だからこそ世界の映画ファンに愛された。

しかし、最近中国国内で公開され、ヒットする中国映画はかなり違う。7月27日に公開された戦争アクション映画『戦狼2』は、その代表といっていい。

中国版『ランボー』と呼ばれる『戦狼2』は、人民解放軍特殊部隊に所属していた元兵士が、アフリカの架空の国で武装勢力や外国人傭兵部隊に襲われた自国民を救い出すストーリーだ。15年に製作された第1作に続く続編で、国境地帯での犯罪組織との戦いを題材にした第1作にも増して「現代中国の国情」を感じさせるつくりになっている。

【参考記事】「雨傘」を吹き飛ばした中国共産党の計算高さ

とにかく強調されるのが、アフリカと中国の友情だ。広域経済圏構想「一帯一路」の重要な目的地であり、急増する中国の投資を考えれば、アフリカ諸国が中国に対して好印象を持つのは当然だろう。欧米や日本には中国の新植民地主義がアフリカで嫌われているという思い込みがあるが、アフリカには「中国製でもインフラがないよりまし」という意識とともに、中国への親近感が広がっている。

ただ、この映画が描く「アフリカの中国愛」は度を越している。その最たるものが、主人公の元兵士が中国国旗を掲げた途端、戦火を交える武装勢力同士が戦闘をやめ、避難する中国人たちの乗った車列を無事通す、というラストシーンだ。12年にはザンビアの鉱山で、昨年はケニアの鉄道建設現場で現地労働者が中国人幹部を襲う事件が起きている。映画史に残る迷ラストシーンかもしれない。

主演のアクションスター呉京(ウー・チン)のマッチョぶりが「本家」シルベスター・スタローンに遠く及ばないのは、まだアメリカに及ばない国力を自覚した控えめさの表現だろう。それでも、映画には随所に白人コンプレックスと見受けられる場面が散在する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの是非、12月の決定会合で「適切に判断」=植

ワールド

南アはG20創設メンバーとラマポーザ大統領、トラン

ワールド

米州兵銃撃容疑者、入国後に過激化 国土安全保障長官

ビジネス

エアバス機、1日にほぼ通常運航へ 不具合ソフトの更
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批判殺到...「悪意あるパクリ」か「言いがかり」か
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中