最新記事

災害

あのジカ熱も?「ハービー」の被災者を感染症が襲う

2017年8月29日(火)17時50分
ジェシカ・ファージャー

大型ハリケーン「ハービー」による大雨で冠水した米テキサス州ヒューストンの州間高速道路45 Richard Carson-REUTERS

<大型ハリケーン「ハービー」で市内全域が前代未聞の洪水に見舞われたヒューストンで、汚水による感染症が流行する危険性が高まっている>

ハリケーン「ハービー」に襲われた米テキサス州ヒューストンや同州南部の住民は、今後数週間、長ければ数カ月間にわたり、汚染された洪水の水や崩れた土砂が原因で、感染症が大流行するリスクに直面することになる。ハービーは全米第4の都市ヒューストンを、さながら病原体の揺り籠へと一変させた。

ヒューストンの雨量は2日間ですでに635ミリに達した。豪雨は30日夜まで続くと予想され、最終的に市内中心部の総雨量は1016~1270ミリに達する見込みだ。豪雨で市内全域が有毒物質を含む恐れがある汚水で冠水している。住民は洪水で発生した水をよけて生活できないため、下痢の原因となる細菌への感染や、レジオネラ菌による感染症、蚊が媒介するウイルスへの感染といったリスクが高まっている。

【参考記事】ヒューストン豪雨災害に見る、「線状降水帯」の恐ろしさ

テキサス州保健省のクリス・バン・ドウセン報道官によれば、同省は感染症の流行を防ぐ対策を進めている。同州や地元自治体の職員は、ハリケーンが来たときの通例として、今回も水道水の摂取を控えるよう推奨している。ハービーの場合、水道水の摂取を控えることが極めて重要になりそうだ。地元当局は28日、ヒューストン市内の一部の地域に水を供給するダムの貯水量が豪雨で急増し、氾濫の危険性が高まったため、2つのダムを放流した。結果的に、洪水で流れた汚水が水道水に混じった可能性が高い。

大気中の水滴を吸い込み感染

ダムの放流により、ヒューストンの住民の多くは水道水を摂取できなくなった。保健当局は住民に対し、細菌を死滅させるために水を沸騰させるか、ボトル飲料で代用するよう推奨している。

【参考記事】ハリケーン一過のハイチ、コレラ感染拡大に懸念 支援の遅れで状況悪化

洪水で溜まった水は、顕微鏡でしか見えないあらゆる病原体の温床になる。米メイヨー・クリニックで感染症を研究する医師のプリティッシュ・トッシュは、ハリケーンによる洪水で出た水には、重大な胃腸の病気を引き起こす病原性を持つ大腸菌が含まれている恐れがあると言う。その他にも、下痢や嘔吐、高熱、腹痛、脱水症などの症状を伴う胃腸の病気を引き起こす赤痢菌などが、汚水に含まれていた事例がある。

感染症は、大型のハリケーンが来れば流行の恐れがあるとあらかじめ分かっていた問題だ。2005年に米南部を直撃し甚大な被害をもたらしたハリケーン「カトリーナ」の後に実施した調査では、ビブリオ・バルニフィカス菌と腸炎ビブリオ、および他の細菌による感染症が報告された。

【参考記事】巨大ハリケーン直撃のハイチにアメリカが海兵隊を派遣

レジオネラ菌による感染症のリスクにも注意するよう、トッシュは警告する。レジオネラ菌は自然界の淡水に生息し、洪水になると、水を使用する人工的な設備に増殖する。大気中の微小な水滴を吸収することで感染する。レジオネラ症になると、肺炎に似た症状や胃腸の病気、頭痛などを引き起こす。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中