最新記事

南米

崩壊ベネズエラに迫る内戦の危機

2017年8月8日(火)17時50分
アイザック・チョティナー(スレート誌記者)

magw170808-ven02.jpg

不正疑惑のある選挙でマドゥロは権限を強化 Carlos Garcia Rawlins-REUTERS

――つまり体制の在り方にかかわらず、石油への依存がさまざまな危機を生むと?

そのとおり。ベネズエラだけでなく、イラクなど石油輸出を生命線とする国はどこも(この問題に)直面する。価格変動が激しい特定のコモディティ(1次産品)のみに依存する経済運営は立ち行かない。

――具体的には、石油依存はどんな形でベネズエラの2大政党制の破綻を招いたのか。

チャベスが多くの国民に英雄視される理由に関わる話だが、2大政党制は非常に腐敗していた。予算もないのにカネを使い、多くの問題を引き起こした。

(2大政党制時代の)89年に再び大統領になったカルロス・アンドレス・ペレスは貧困層支援を公約していた。だが大統領に就任した途端に新自由主義的な緊縮政策に踏み切り、公共料金を値上げした。突然の転換に抗議する市民が(同年2月に)カラカス暴動を起こし、軍隊が投入されて大勢が死亡した。

事件を記憶するベネズエラ国民にとって2大政党制は敵で、チャベスこそが英雄だ。チャベスが(99年に)大統領に就任した当時、原油価格は高騰していた。チャベスは医療や教育を無償化し、さまざまな補助金を提供し、十分な予算があるかのように振る舞った。

ないカネをばらまくには借金をするか、紙幣を乱発するしかない。だが、ベネズエラの通貨ボリバルの需要はないため(紙幣乱発で)インフレが発生した。今年のインフレ率は720%に達すると予測されている。

【参考記事】中国マネーが招くベネズエラの破綻

―― チャベスとマドゥロには、特に反対派への対応や報道の自由の面で違いがあるのか。

重要な相違点が2つある。チャベスは正当な選挙で勝利するというプロセスなしには行動しなかった。新憲法を制定した際には、国民投票で圧倒的な支持を取り付けた。一方、マドゥロは選挙を道具にできていない。

チャベスはカリスマ性のある指導者だったが、マドゥロは違う。多くのベネズエラ人は自分たちと同じく貧困層の出身で、自分たちと同じような外見や話し方をしたチャベスを愛した。独裁者に国民の心をつかむ魅力があれば、負ける心配なしに選挙という手続きを踏めるが、マドゥロにはそれがない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪首相、12日から訪中 中国はFTA見直しに言及

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

旧村上ファンド系、フジ・メディアHD株を買い増し 

ワールド

赤沢再生相、米商務長官と電話協議 「自動車合意なけ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中