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エルサレムでの衝突はどこまで広がるのか──パレスチナ・イスラエルで高まる緊張

2017年7月23日(日)02時30分
錦田愛子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授)

エルサレムで礼拝する権利をめぐる闘争

だが、こうした事件の再発を防ぐため取られた治安措置が、対立の拡大を招くこととなる。

銃撃事件が起きたのは金曜礼拝の日だったが、各地から集団礼拝のために集まるイスラーム教徒が、アル=アクサー・モスクと黄金のドームを含む旧市街の聖地(パレスチナ側は「ハラム・アッシャリーフ」、イスラエル側は「神殿の丘」と呼ぶ)に入ることは、その日は全面的に禁止された。これは1969年以来の規制であるとして、アラブ系のメディアでは大きく報じられ、非難が国際的にも広まっていった。

さらにイスラエル政府は、ハラム・アッシャリーフに入る数箇所の入口に金属探知機を設置した。強く反発した人々は、イスラエルによる一方的な強制措置に抗議して、各地でデモや衝突が起きるようになる。ハラム・アッシャリーフを中心とする聖地エルサレムは、世界の全イスラーム教徒にとって、メッカとメディナに次ぐ第三の聖地だからだ。

その聖地への出入りが、異教徒で占領者であるイスラエル政府によって管理されることは怒りを招き、エルサレムの聖地管理の現状変更への強い懸念が表明された。パレスチナ側の関係諸組織は、金属探知機が撤去されるまでハラム・アッシャリーフ内に入ってはならないと、抗議行動を呼びかけた。一連の事件を報じるアラビア語の記事では、これらの抗議行動についてアル=アクサーの「防衛」という言葉が用いられている。

震源地としてのアル=アクサー・モスク

アル=アクサー・モスクを含むエルサレムの聖地は、パレスチナにおける紛争の震源地だ。2000年にはオスロ合意による和平プロセスの決裂を受けて、ここから第二次インティファーダが始まった。今週金曜日に起きた衝突では、既にそのとき以上の負傷者が出ている。

衝突はエルサレム以外にも拡大している。ラーマッラーやベツレヘム、ヘブロンの検問所周辺では、集まった数百人規模のパレスチナ人が投石するのに対して、イスラエル兵士が催涙ガスや発砲などで応じ、負傷者や逮捕者が出ている。イスラエル軍の発表によると、金曜日の衝突には合計3千人以上のパレスチナが加わったという。もはや第三次インティファーダを思わせる様相だ。

イスラーム教徒の聖地をめぐる対立とあって、今回の騒動はエルサレムやパレスチナ自治区ばかりでなく、世界各地にも連帯行動を呼んでいる。既に報じられているところでは、ヨルダンやトルコ、イエメン、またスウェーデンなどでも抗議デモが起きた。

デモにとどまらず、21日の金曜日の夜にはラーマッラー近郊の入植地で、自治区のパレスチナ人がユダヤ人入植者の家に侵入し、家族3人をナイフで殺傷するという事件も起きた。一見、散発的にも見えるこれらの事件はすべてつながっており、今後は拡大する可能性もある。

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