最新記事

シリア

ポストISIS戦略に残る不安

2017年7月10日(月)11時05分
ポール・マクリーリー

アフガニスタン駐留米軍がアフガン地方警察を育成した際は、その目的として同国政府軍の目が行き届かないような地方への派遣がうたわれ、当初はうまく機能しているように見えた。だが人員が約3万人に膨れ上がり、各地で複数の小グループが活動するようになると、治安維持に成功する地域がある一方で、窃盗やレイプ、嫌がらせや汚職などで罪に問われる隊員が後を絶たなくなった。

「新たに誕生した治安部隊が、これまで支配していたテロ組織よりも信頼性に欠けるなどということは許されない」と、元米国務省のある高官は言う。「懸念を抱く地元市民に不信感を抱かせてはいけない。掃討作戦が続く場所で取り調べや拘束を行う際も、慎重の上に慎重を重ねて実施しなければならない」

ラッカでの訓練計画に詳しいある米政府高官によれば、治安部隊育成の目的は、人道支援組織がラッカ市内で活動できるようにするなど、「許容範囲の治安環境を整える」ことだという。ラッカに秩序が戻り、市民が自力で統治できるようになった暁には、「有志連合は後方支援する役に回ることになるだろう」と、この高官は言う。

ラッカ陥落を目前にして、周辺地域には既に米国際開発庁(USAID)や国連が、水や食料、医薬品や発電機といった人道援助物資を運び込んで待機している。だが市を運営し、住民サービスを提供していくのも、いずれはラッカ市民協議会に任されることになるだろう。

【参考記事】ISISの終焉:支配地域は縮小、資金も枯渇

静観のイランとヒズボラ

同協議会は、市民との絆を築くことに力を入れている。先月末にはSDFに拘束されていたISISの下級戦闘員83人(いずれもラッカ市民で戦闘には関わっていなかった)に恩赦を与えた。こうした動きは、ラマダン(断食月)明けの休日「イード・アル・フィトル」を迎えた市民に好印象を残した。

一方で、治安部隊と市民協議会は厳しい問題に直面している。アラブ人やクルド人、その他の少数民族で構成される協議会は、アラブ人市民から疑念の目で見られる可能性がある。

「クルド勢力から指名され、クルド人に協力しているとみられるアラブ人はひょっとすると、良くて信用ならない奴、悪くて何らかのスパイだと思われるかもしれない」と、大西洋協議会中東センターの上級研究員ファイサル・イタニは言う。「だからこそアラブ人の身元調査は厳格に行われなければならないし、クルド勢力との関係が非常に重視される」

市民の多くも、新たな治安部隊に疑いの目を向けるかもしれない。治安部隊要員は協議会メンバーと同様、ラッカ市内を離れて暮らしていた。その上、今後ラッカを支配するようになる者が誰であれ、シリア政府やロシア政府に支援を求めて彼らと取引する可能性も排除できない。シリア北部のクルド人グループもかつてそうしたように。

シリア政府の後ろ盾となって戦闘に加わってきたイランもレバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラも、ラッカの奪還作戦を静観し、終結をじっと待っていると、イタニは指摘する。そうしながら「シリアにおけるアメリカの野望と戦略がどの程度なのかを見極めている」のだという。

イランもヒズボラも、ISISから奪還した地域で米軍が永続的なプレゼンスを確立しようとする事態は「受け入れられないだろう」と、イタニは言う。

そうなればイランとヒズボラは、米軍とシリア国内の「米軍の手先」に、ゲリラ戦を仕掛けてくるかもしれない。彼らがかつて、イラクで駐留米軍にひそかに攻撃を仕掛けていたときのように。

From Foreign Policy Magazine

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年7月11日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、域外中銀向け流動性供給制度の拡充検討 ユー

ワールド

英首相、前駐米大使を激しく非難 米富豪事件で被害者

ビジネス

実質消費支出、12月は前年比-2.6% 2カ月ぶり

ワールド

ベネズエラ、年内に選挙実施可能=野党指導者マチャド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新世論調査が示すトランプ政権への評価とは
  • 2
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 5
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 6
    「反トランプの顔ぶれ」にMAGAが怒り心頭...グリーン…
  • 7
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 8
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 9
    「エプスタインは悪そのもの」「悪夢を見たほど」──…
  • 10
    関税を振り回すトランプのオウンゴール...インドとEU…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中