最新記事

BOOKS

「休みたいから診断書をください」--現役精神科医「うつ病休職」の告発

2017年7月16日(日)07時15分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<うつ病が急激に増えており社会問題化しているが、実際にはうつ病がなんらかの「理由」として使われているケースが多いと、『うつ病休職』の著者。そもそも、うつ病はストレスによって起こるものという認識も間違いだという>

うつ病休職』(中嶋聡著、新潮新書)というタイトルだけを見ると、うつ病で悩む人のことを取材した深刻なドキュメンタリーのようにも思える。ところが本書は、そのような角度からこの病気を扱ったものではない。

著者はクリニックを開業している現役の精神科医。最近、うつ病が急激に増えており、それが深刻な病気であることを認めつつも、「現在"うつ病"とされているもののすべてがそうかといえば、決してそうではない」と主張しているのだ。

平たくいえば、本当のうつ病で深刻に悩む人がいる一方で、うつ病がなんらかの「理由」として使われていることも否定できないという"告発"である。


 最近、診察していてとくに強く感じることがあります。それは「会社に行くのがしんどくなった。上司に話したら『それなら病院に行って診断書をもらってこい』と言われた。休めるように診断書を書いてほしい」といった患者がとみに多くなっていることです。(中略)
 聞いてみると、「職場でストレスがある」と言います。医師から見ると、それは仕事をする以上はあたりまえのもので、それほどのストレスとも感じられない場合が多い。しかし本人は、その影響として抑うつ(落ち込んだ気持ち)や不安、イライラなどを強く訴え、「このような状態では仕事ができそうもない。休みたいので診断書を書いてほしい」と希望します。(26~27ページより)


診断書を希望する状況もさまざまで、他にも「上司にパワハラされている。病気ということにして診断書をもらって休みたい」とか、「退職したいと言ったら『診断書をもらってこい』と言われた」といったものもあるのだとか。

しかし医師の立場から判断すれば、前者の多くは診察しても病気といえるものではなく、単に労務問題を医療問題にすり替えようとしているだけ、というケースが多数。後者の理由はなかなかわからないものの、退職後も傷病手当金がもらえたり、失業手当がすぐにもらえるといった事情があるらしい(ちなみにこの考え方の確実性は、第三章で具体例とともに立証されている)。

また、うつ病に対して十分な対策をとっていないと、場合によっては企業が安全配慮義務違反もしくは使用者責任を問われるため、(「主治医が大丈夫だと言っている」と本人から聞かされていたとしても)休職などはっきりした形で対策をとっておいたほうがいいという企業側の事情も考えられるのだそうだ。


 二〇〇〇年に電通事件(自殺)、二〇〇七年に積善会事件(自殺)、二〇一四年に東芝事件(解雇)の判決が下されました。いずれも、企業の精神衛生に関する安全管理責任が断罪され、企業にとって非常に厳しい判決が下されました。
 これらの判決に企業も、社会全体も、影響というより衝撃を受け、メンタルヘルスに関する安全管理体制を整備しなくてはならないという機運が高まりました。(36ページより)

さらに昨年には、電通の女性新入社員が長時間労働を苦にして自殺し、うつ病による労災が認められるという「第二の電通事件」も起きている。それらは確かに、企業の安全管理体制の整備につながってきたのだろう。しかし著者は、ことはそれほど単純ではないと指摘する。その根底にあるのは、本書の主題である「診断書問題」だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=大幅上昇、ナスダック約4%高 中東の

ワールド

EU、22年のエネ危機対策の復活検討 イラン戦争受

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、「有事の買い」一服

ワールド

米国人女性ジャーナリスト誘拐、バグダッド 捜索続く
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 5
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 6
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 7
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 10
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中