最新記事

中国社会

共産党が怖がる儒教の復権

2017年6月13日(火)10時10分
サム・クレーン

南京にある儒教の寺院で行われた新学期の式典に出席する小学生 VCG/GETTY IMAGES

<孔子の教えを重んじる私立学校の存在を共産党指導部がひどく警戒するこれだけの理由>

中国で今、孔子が再びブームになっている。

学術会議でもテレビのクイズ番組でも、孔子の思想が取り上げられている。政治指導者や有名人が、こぞって孔子の言葉を引用し、さまざまな自称「儒学者」たちが儒教の意味を議論している。

だが中国共産党にしてみれば、儒教の流行はあまり歓迎すべきものではないようだ。中国政府は国外で展開する中国語学校を「孔子学院」と称し、習近平(シー・チンピン)国家主席は公式なイベントで孔子をたたえてもいる。だからといって、全ての国民に儒教を支持させたいわけではないというのが本音だ。

中国の教育省が2月に発した通達は、儒教の流行の一因となっている私立学校を牽制するものだった。これらの学校は、古典的な哲学の書物や慣習を重視した教育を行っている。

共産党機関紙・人民日報系のタブロイド紙である環球時報は、この通達の背景を次のように報じている。

「子供の教育について保護者たちは伝統的な手法に目を向けつつあるが、各地方の教育当局には、『四書』(儒教の重要な書物)を教育に取り入れている私立学校には注意を払うようにとの指示が出ている」

同紙によれば、国内にあるそうした私立学校の数は約3000校。そのほかに、公立学校の教育方針が合わないため自宅学習を選んだ子供が約1万8000人いる。だが中国にいる膨大な小中学生の数に照らせば、ほんの少数だ。なぜ教育省は、非主流の教育をそれほど懸念しているのだろうか。

パリを拠点に研究を行う社会学者のセバスチャン・ビリユとジョエル・トラバールは、共著『賢人と国民──中国における儒教の復活』の中で、その理由を以下のように指摘した。「四書教育がいま注目されているのは、中国の教育制度に及ぼす影響力というより、新世代の儒教活動家を生む可能性があるという点に関連している」

【参考記事】受験格差が中国を分断する

実は権力批判の基盤に

私立学校の運営の細かな点には、国の権限が及ばない。ところがこれらの学校は、権威主義的な専制国家を批判する基礎になり得る道徳規範の下に、新しい世代の教育を行っている。

孟子はかつて言った。「民を貴しと為し、社稷(しゃしょく)はこれに次ぎ、君を軽しと為す」

すなわち人民が栄えることも、伝統儀式が尊重されることもないのなら、君主などいなくてもいいという意味だ。明朝の皇帝はこの思想を脅威と見て、孟子の書から削除しようした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ持続的和平で地域は恩恵、「平和の配当」に=IM

ビジネス

米銀行株が急落、自動車関連2社の経営破綻で不安高ま

ワールド

トランプ氏、プーチン氏と「2週間以内に」ハンガリー

ビジネス

米商工会議所、政権の高技能H-1Bビザ手数料増額に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体は?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 10
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中