最新記事

イスラム過激派

アジアに迫るISISの魔手 フィリピン・ミンダナオ島の衝撃

2017年6月17日(土)10時38分


山岳拠点

一部の当局者は、フィリピン治安部隊は1月の拠点攻撃の後、ISによる脅威について油断するようになっていたと話している。「彼らがマラウィに潜入していることに気づかなかった。山岳拠点ばかり気にしていた」とフィリピンのロレンザーナ国防相は記者団に語った。

フィリピンとインドネシアの情報機関関係者によれば、ここ数カ月、ハピロンの勢力が、外国人戦闘員とマラウィで新たに徴募した戦闘員によって拡大したと語る。フィリピン軍広報官ジョアル・ヘレラ中佐によれば、外国人戦闘員の多くは、先月マラウィで行われたイスラム教の祈祷イベントに紛れて市内に潜入したという。

ロレンザーナ国防相によれば、ハピロンは50─100人の戦闘員とともに、250─300人規模のマウテグループに合流した。この他に2つの組織、「バンサモロ・イスラム自由戦士」と「アンサール・アルキラファ・フィリピン」が少なくとも合計40人の戦闘員を連れて合流した。

イスラム教の断食月ラマダンが開始する4日前の先月23日、彼らは攻撃を開始した。このときフィリピン軍部隊はマラウィ市内でハピロン逮捕を試みたが断念している。

フィリピン軍が武装した護衛団に阻まれて撤退した後、50口径の機関銃を搭載したトラックに分乗し、携行式ロケット弾と高性能ライフルで武装した約400人の戦闘員が素早く市内に展開した。

数時間のうちに彼らは刑務所と近隣の警察署を攻撃し、武器弾薬を奪った、と住民は証言する。

プロテスタント系の教育機関であるダンサラン・カレッジとカトリック系の大聖堂は破壊され、1人の神父と十数人の教区民が拘束された。彼らは今も人質になっている。

シーア派のモスクも破壊され、スペインの支配に抵抗して蜂起したフィリピンの英雄ホセ・リサールの銅像も頭部を切り落とされた。

屋根の上に狙撃手

ヘレラ中佐によれば、この攻撃には、専門的な軍事作戦の特徴が見られるという。「マラウィ全域を制圧するための、大掛かりな戦略だ」と中佐は言う。

最初の戦闘が終わった後、市内各所でISの旗がはためき、覆面をした戦闘員が街路でマラウィを手中に収めたと叫び、拡声器を使って住民に参加を呼びかけ、呼びかけに応えた者に武器を配っていた、と地元住民は語る。

軍はヘリコプターを投入して武装勢力の拠点にロケット弾を発射し、地上部隊が主要な橋梁やビルを奪回しはじめた。だが一部の住民によれば、この反撃によって民間人も犠牲となったという。

「IS戦闘員は通りを走っていたかと思うと姿を消す。軍は通りにいる彼らを爆撃するが、われわれの家やモスクに命中した。他の多くの家もやられた」。 妊娠した29歳の女性はマラウィ近郊の避難所で、その時の状況を語った。

「爆弾が爆発して、多くの人々が亡くなった」と彼女は語り、ムスリムの聖職者や子どもも犠牲となった、と付け加えた。

軍の当局者はこの件についての報告は受けていないと語った。ロイターも独自の確認は取れなかった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏がMRI検査、理由明かさず 「結果は完璧

ワールド

米中外相が電話会談、30日の首脳会談に向け地ならし

ワールド

アルゼンチン大統領、改革支持訴え 中間選挙与党勝利

ワールド

メキシコ、米との交渉期限「数週間延長」 懸案解決に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中