最新記事

南シナ海

トランプはドゥテルテをホワイトハウスに招いてはいけない

2017年5月9日(火)19時10分
エベリン・ファルカス(大西洋評議会シニアフェロー)

5月8日、米比合同軍事演習の開会式。中国に遠慮して小規模に行われることになった Erik De Castro-REUTERS

<トランプは電話会談の際にドゥテルテをホワイトハウスに招いた。とんでもないことだ。乱暴者の殺人者だからではない。中国の南シナ海進出を見逃すことでアメリカの国益を損ねているからだ>

ドナルド・トランプ米大統領は先月下旬にフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領と電話会談を行った際、ドゥテルテをホワイトハウスに招待した。それは大きな間違いだ。

ドゥテルテが進める麻薬撲滅戦争で数千人が超法規的に殺害されたとか、ダバオ市長時代に自ら容疑者を殺害したなどと豪語したからではない。

ドゥテルテが暴言癖を持ち、道徳観念を欠く立派な犯罪者なのは誰の目にも明らかだ。だが、アメリカの歴代大統領はこれまで、ドゥテルテを上回る暴君とも会ってきた。トランプも先月、人権団体の猛反対にも関わらず、エジプト独裁政権のアブデル・ファタハ・アル・シシ大統領をホワイトハウスに招いてみせた。

フィリピン有利の判決も棚上げ

だが、トランプ政権がドゥテルテを招くべきでない最も重要な理由は、ドゥテルテがアジアで安全保障上アメリカの国益にに反する政策を推し進めているからだ。

【参考記事】ドゥテルテの南シナ海「占領」計画は中国の一声で中止

ドゥテルテは南シナ海で中国と領有権を争う海域や、南シナ海を含むアジア太平洋地域での「航行の自由」を棚上げにし、中国におもねろうとしている。トランプと電話会談した数日後、フィリピンが議長国を務めた東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳会議を終えたドゥテルテはこうコメントした。「我々は中国がすることを止められない」。

その言葉通り、今回の議長声明からは、事前の声明案や昨年の議長声明に含まれていた中国を念頭に置いた「埋め立てや軍事拠点化」を懸念する文言が削除された。

【参考記事】ドゥテルテの南シナ海「占領」計画は中国の一声で中止

昨年7月には、オランダ・ハーグの仲裁裁判所がフィリピンの訴えを認め、南シナ海に中国が独自に主張する主権に根拠はないと判断した。フィリピンは中国と争っていた南シナ海のスカボロー礁の領有権を認められたが、ドゥテルテはそもそも、そんな判決など存在しなかったかのように振る舞っている。

トランプの招待につれない態度

ドゥテルテは大統領選挙中は、水上バイクで南シナ海のスプラトリー諸島(南沙諸島)に行ってフィリピンの国旗を立て、中国が手を出せないようにしてやると豪語していた。だが大統領就任後は親中路線に転換し、アメリカと「決別」したいと宣言した。

【参考記事】トランプ-蔡英文電話会談ショック「戦争はこうして始まる」

対テロ作戦を含めた安全保障分野では、アメリカとの軍事同盟を維持する方針で落ち着いたようだが、外交では中国をより重視するという。ホワイトハウスに招待するというトランプの申し出に対し、ロシアやイスラエルを訪問する予定もあって「確約できない」と答えたドゥテルテの反応が、そうしたスタンスを物語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石油タンカー追跡、ロシアが米に中止を正式要請 米紙

ワールド

ロシア、ウクライナ攻撃の証拠を米に提供 プーチン氏

ワールド

アングル:注射から飲み薬へ、米の新「減量薬」の普及

ワールド

米、中国に台湾圧力停止求める 軍事演習「不必要に緊
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 9
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 10
    【現地発レポート】米株市場は「個人投資家の黄金時…
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中