最新記事

自動車

新生「スバル」の前に立ちはだかる米国の壁

2017年4月25日(火)17時21分
宮本夏実(東洋経済記者)※東洋経済オンラインより転載

ブランド築き、業界屈指の高収益に

業界屈指の営業利益率が、その成果だ。工場の高稼働を維持し、余剰在庫を持たず値引きも最小限に抑えてきた。スバルの営業利益率は安定して10%を超えており、2016年度も12.3%を見込む。

主力市場の米国は、全体では減速感が漂うものの、スバルは依然好調が続く。今年3月までの64カ月連続で、販売台数が前年同月を上回っているのだ。2017年暦年でも前年比9%増で過去最多の67万台を狙う。

米国ではスバル車人気で在庫が足りないため、現地工場の生産能力を従来の年20万台から、2016年末に年40万台弱へと倍増させた。「現地のディーラーからはまだ車が足りないと言われる。やる気があるんですか、とせかされる」(吉永社長)という"ぜいたくな悩み"はまだ続きそうだ。

一方で、規模が大きくなったがゆえの深い悩みもある。最大の課題が、環境規制への対応だ。

特にスバルの米国販売の1割弱を占めるカリフォルニア州は、ZEV(排ガスゼロ車)規制という、世界でも最も厳しい環境規制を実施している。州内の販売台数のうち一定割合は、プラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)を売らなければならない。規定台数に満たない場合は、規制をクリアしている他社からクレジット(排出枠)を買い取ることで補うか、罰金を支払う決まりだ。

環境規制の高い壁が立ちはだかる

そのZEV規制が2018年から強化される。従来は規制対応車だったハイブリッド車が対象外になる。また、規制対象になるメーカーの基準は、同州での販売台数6万台以上から2万台以上へと引き下げられる。

toyokeizai170425-sub3.jpg

スバルも中規模メーカーの規制が適用され、たとえば2018年はカリフォルニア州での販売台数のうち、約4.5%分はPHVにしなければならない。大規模メーカーへと区分が変更される2021年以降はEVの販売も義務となる。

規制に合わせてスバルは、提携するトヨタから技術提供を受けPHVを開発し、2018年に投入する計画だが、進捗は遅れぎみだ。同社の日月丈志専務は、「PHVの発売は2019年ごろになる。初年度はクレジットでカバーする」と話す。EVの投入は2021年ごろを予定している。

ZEV規制は米国の他9州にも広がる見込み。米国を稼ぎ頭に高収益体質を築いたスバルも、この先、クレジット購入や環境対応の開発費増加で収益の圧迫が懸念される。

日系で唯一、水平対向エンジンを持つメーカーとして走りの楽しさを追求してきたスバル。車の電動化が進んでも、「らしさ」を保てるか。

SUBARUの会社概要は「四季報オンライン」で

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ワールド

ウクライナがクリミア基地攻撃、ロ戦闘機3機を破壊=

ワールド

北朝鮮が短距離弾道ミサイル発射、日本のEEZ内への

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中