最新記事

米中関係

肩透かしに終わった米中「巨頭」会談

2017年4月20日(木)10時30分
J・バークシャー・ミラー(本誌コラムニスト、米外交問題評議会研究員)

放置できない重要課題

首脳会談後、トランプと習が共同記者会見を開くこともなかった。代わりに会見したティラーソンは、要するに米中両国が「意見が一致しないことで一致した」ことを示唆した。

「トランプ大統領は、習国家主席と中国がアメリカの取り得る措置についてアイデアを出すことを歓迎し、中国側と喜んで協力する旨を伝えた。ただ、それが中国側に問題を生じさせることをアメリカは理解しており、両国が連携できない場合は、単独行動を取る用意がある」

この展開は決して意外なものではない。これまでトランプは何かと中国を厳しく批判してきた。それも対米貿易黒字や「為替操作」から、北朝鮮への圧力、南シナ海における軍事活動など幅広い。大統領就任を目前に控えた段階で、台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と電話会談して、中国を挑発したこともある。

これに対して中国は辛抱強く様子見の姿勢を維持してきた。そしてついに、トランプは管理可能という判断を下したようだ。理由は主に3つある。

まず、蔡との会談後の騒ぎを受け、トランプはアメリカの歴代政権と同じく、「一つの中国(台湾は中国の一部である)」という中国の公式見解を尊重する姿勢を示すようになった。

【参考記事】トランプから習近平への「初対面の贈り物」

第2に、2月末に訪米した中国外交トップの楊潔篪(ヤン・チエチー)国務委員が、トランプをはじめ複数の政府高官と会談して、米中首脳会談の早期実現に向けた地ならしに成功した。

第3に、先月半ばに訪中したティラーソンが、中国に対して驚くほど柔軟な姿勢を示した。ティラーソンは、「非衝突・対立」「相互尊重」「ウィンウィン・協力」など、中国が新たな米中関係を定義するとき使う表現を、自ら口にさえした。

こうしたアメリカ側の奇妙な譲歩(意図したものではないかもしれないが)を受け、中国は、「アメリカは台湾や海洋主権など中国の核心的利益についても、従来の批判を引っ込める可能性がある」と結論付けた。

とはいえ、トランプ政権の矛盾するメッセージについては、アメリカ国内からも困惑の声が上がっている。中国専門家のほとんどは、中国の言葉遊びや「空約束」を真に受けるなと、トランプ政権に警告している。それに中国との関係では、言葉にならないことのほうが重要な意味を持つ場合がある。

また、中国との関係では1つや2つの問題だけに気を取られるべきではない。トランプが今回の会談で、北朝鮮と貿易をテーマにしたがっていたのは明白だ。どちらも重要な問題ではあるが、海洋安全保障やサイバー攻撃、中国軍の近代化といった重要課題を放置すれば、後で痛い思いをしかねない。

[2017年4月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中