最新記事

音楽

デビッド・ボウイが愛したネットという実験場

2017年3月3日(金)11時00分
ザック・ションフェルド(本誌記者)

magc170303-bowie02.jpg

デジタル配信されたボウイのベスト盤 JAAP ARRIENSーNURPHOTO/GETTY IMAGES

07年3月には親友で写真家のジェフ・マコーマックの本を引き合いに、ジョン・レノンとしたいたずらを明かしている。

「ジェフ・マコーマックが新著『フロム・ステーション・トゥ・ステーション』で、私とレノン、ポール・サイモン(アート・ガーファンクルだったかもしれない)と、あと2人ほどのロックフォークミュージシャンが集まったときのことを暴露している。ラジオ局に電話をかけまくり、ジョンが『どうも、こちらJL。DBやPSなんかと一緒にいる』と言うんだ。そして電話を切られるまで相手の反応を笑っていた」

ボウイはファンの音楽談義にも目を通していたようだ。あるファンが、ボウイの「ゴールデン・イヤーズ」(75年)について、マリリン・マンソンのカバーのほうが好きだとコメントしたときは、「あり得ない!」と投稿した。

ファンとのライブQ&Aに参加したこともある。00年10月のQ&Aの一部をご紹介しよう。

<ファン> 人肉を食べるって本当ですか。

<ボウイ> それってすごくプライベートな質問だよ。秘密にしておこう! きみはカトリックじゃないのかい?

<ファン> デーブ、カジノでギャンブルをすることはある?

<ボウイ> ないね。ルーレットを回すより、自分でとんぼ返りをしてるよ。ところでデーブって呼ぶのはやめてくれ!

<ファン> ジョージ・クリントンが曲の中で、あなたの名前を間違って発音したことに怒っている?

<ボウイ> 全然。私も彼について曲を書いたら、間違って発音してやるさ。でも、大統領について曲を書きたい奴なんていないだろう?

<ファン> 故人も含めて、一緒に仕事をしたかったのにできなかった人はいる?

<ボウイ> 死者と仕事をするのは大好きだ。何でも言うとおりにしてくれるし、反論しないし、歌は私のほうが絶対上手だからね。でもレコードジャケットでは、彼らのほうがすごくかっこよく撮れてたりする。

【参考記事】プリンスの自宅兼スタジオ「ペイズリーパーク」がついに公開

***


こうしたやりとりを読むと、ボウイがファンとの交流を心から楽しんでいたこと、そして新しい音楽の在り方を常に探っていたことが分かる。それは現代のアーティストが、ツイッターなどのソーシャルメディアを通じて、ファンと直接交流するスタイルの原型のようにも見える(もちろんほとんどのスターは、ファンの書き込みに答えることはめったにないけれど)。

ボウイは晩年、ボウイネットにコメントを書かなくなった。ソーシャルメディアは決してやらなかった。06〜07年のボウイネットへの投稿は、今もファンサイトで見ることができるが、06年より前の投稿は失われてしまったようだ。

だがファンの間では、ボウイが残したものは脈々と生き続けている。彼らにとってボウイは永遠の「スターマン」であり、「痩せた青白き公爵」であり、「ネットで世界をからかった最初の男」なのだ。

[2017年3月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

SBI、手数料無料化も純利益2.4倍 「公的資金完

ビジネス

米アトランタ連銀総裁、年内利下げをなお確信 時期は

ビジネス

中国自動車販売、4月は前年比5.8%減 NEVの割

ビジネス

ホンダの今期、営業益予想2.8%増 商品価値に見合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 4

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 7

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中