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移民政策

トランプのメキシコいじめで不法移民はかえって増える

2017年2月22日(水)21時00分
モリー・オトゥール

オバマ前政権は、幼少期に親に連れられて不法入国した「ドリーマー」と呼ばれる移民には、例外措置を適用して強制送還を免除した。トランプ政権が不法移民の取り締まりを強化する中、当局者がドリーマーを拘束したという報道もあったが、ホワイトハウスは今のところ彼らについては例外措置を継続する方針を示した。トランプは先週、一時的に就業許可を与えて合法的な滞在を認める「DACA」という制度の対象になった75万人のドリーマーについて「偉大な心を見せる」と発言していた。

だが不安の払拭には程遠い。ショーン・スパイサー大統領報道官は火曜の会見で、強制送還はアメリカの治安に脅威となる移民を優先して行うとしたが、こうも言った。「不法滞在者なら誰でも、いつでも摘発の対象になり得る」

国土安全保障省は、アメリカにいる1100万人いるといわれる不法移民の「大量の強制送還」が取り締まり強化の目的ではないと主張する。新指針の経緯を説明した同省の高官は「必ずしも不法移民がパニックに陥る必要はない」と述べた。

トランプは大統領就任前から、アメリカとメキシコの2国間関係をひどく傷つけてきた。これから貿易戦争になると脅し、国境に壁を築くと言い、「悪い連中」に立ち向かうため国境沿いに米軍を派遣するとまで言った(ペニャニエトは先月末、ワシントンで予定されていたトランプとの首脳会談を中止した)。駐米メキシコ大使は、トランプのメキシコに対する扱いは「受け入れられない」と言った。

【参考記事】トランプのメキシコ系判事差別で共和党ドン引き

メキシコ人移民は減っている

ケリーに託されるのは、乱暴なトランプの指示をきちんとした政策の指針に置き換えて、現場の最前線に立つ国境警備隊や管轄する関係省庁のトップが政策を実行できるようにするという困難な役割だ。

そこで大事になるのは、メキシコの協力だ。過去40年間でメキシコからアメリカに渡る不法移民は最低水準に落ち込んだ。メキシコ人に限ると、2009年以降にアメリカに移住した人は、アメリカからメキシコに戻ってきた人より少なかった。むしろ治安が悪化するグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルという中米3カ国こそが、メキシコ経由でアメリカに不法入国する移民の主な出身国だ。近年増加している1人で越境する子どももそこに含まれる。

これまで米政府は様々な制度の下、アメリカへの移民流入を阻止するため、メキシコや中米諸国に対して数十億ドルの資金を提供してきた。メキシコはそれに応じ、不法移民の拘束や強制送還の措置を見事に強化し、2013~16年の間は中米諸国を中心に強制送還する人数を倍増させた。再度アメリカへ入国を試みるより、メキシコに移住すると決めて難民申請する人々も増えている。だがトランプによる最新の指針は「米連邦予算からメキシコに拠出する直接間接のあらゆる助成金」を見直すよう求めており、削減もちらつかせている。

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