最新記事

医療

ひと息吹きかけて17種類の病を診断

2017年2月21日(火)10時40分
カレン・タンボコン

息を吹き込むだけでさまざまな病気のリスクを発見できるようになれば、医療コストも大幅に減らせるはず PIOTR290/iStock.

<ナノテクノロジーと人工知能を使って息に含まれる化学物質を分析し、隠れた病気を突きとめる新技術が登場>

近年、癌や脳疾患の生存率を大きく左右するカギとして重視されるのが「早期発見」。そのためには定期的な検査が欠かせないが、受ける前に食事制限を課されたり、場合によってはひどい痛みを伴うなど身体的負担が大きい上、費用もばかにならない。

もっと手軽に病気を突き止める方法があれば――そんなニーズの高まりを受け、世界でさまざまな分析装置の開発が進められている。なかでも画期的な例の1つが、息を吹き込むだけでさまざまな病のリスクを診断できる新技術だ。

そもそも人間が吐き出す息は主に窒素と酸素、二酸化炭素で構成される。しかし同時に、さまざまな化学物質が微量含まれており、その種類や量は抱える疾患や健康状態によって大きく異なる。

イスラエル工科大学の研究チームはそこに着目し、人間の息を分析して疾患の有無を診断する装置を開発した。呼気に含まれる生体ガスを分子レベル、つまりナノ単位で検知するセンサーに人工知能(AI)を組み入れたもので、検出した化学物質の種類と量から、リスクの高い疾患がないか分析する。

【参考記事】飛行機での出張はVR導入でどれだけ快適になる?

これまでも呼気に含まれる物質を分析して、病気のリスクを測る装置の開発は行われてきたが、その大半は特定の病をターゲットにしたものだった。一方、今回の装置は肺癌や前立腺癌、腎臓疾患、肺高血圧症、パーキンソン病、クローン病など17種類の疾患を一度に調べることができるという。

実験の対象になったのはフランス、中国、アメリカなど5カ国の1400人以上(17種類の疾患のいずれかを抱える約800人と、健康体とみられる約600人)。その結果、およそ86%という高い確率で疾患の有無とその種類を突き止めることができた。

まだ実験レベルだし、疾患ごとに異なる呼気中の物質の「特徴」についても研究を重ねる必要がある。課題は多いが、もしこの装置が実用化されれば、早期発見・早期治療に大きく貢献するだろう。

【参考記事】「野菜足りてる?」手のひらでチェック

「肺癌は早期発見によって生存率を10%から70%へと引き上げられる」と、研究チームを率いたイスラエル工科大学のホサム・ハイク教授は語る。「たとえ今は健康体でも、ある種の疾患のリスクが高い人々をいち早く見つけることもできるかもしれない」

そのうち、ひと息吹きかけるだけで寿命まで予測できるようになるかも?

[2017年2月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルおおむね下落、米景気懸念とFRB

ビジネス

ステーブルコイン普及で自然利子率低下、政策金利に下

ビジネス

米国株式市場=ナスダック下落、与野党協議進展の報で

ビジネス

政策不確実性が最大の懸念、中銀独立やデータ欠如にも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 8
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中