最新記事

ワークプレイス

講義室をなくし、「反転授業」を実践するエンジニア教育再生の拠点

2017年1月20日(金)17時58分
WORKSIGHT

WORKSIGHT

<2012年にカナダのヨーク大学が新設した「ラソンド・スクール・オブ・エンジニアリング」。校舎はあくまで「交流」の場とし、講義内容はオンラインで学習する新設学部だ。「世界を変える」情熱と問題解決能力を育成しようというそのチャレンジは、エンジニア教育の先端として衆目を集めている> (上写真:ヨーク大学敷地の入口に位置し、同大学のランドマーク的存在となったラソンドの教育施設。2015年に建設された新校舎で、世界中から入学希望者が集まっている)

「世界を変える」情熱と問題解決力を育成する[The York University Lassonde School of Engineering]


[課題]  未来のエンジニアを育成したい
[施策]  個人の情熱に立ち返った教育の実践
[成果]  エンジニア教育の新しいトレンドを牽引する存在に

 カナダ最大の都市トロント。この地に本部を置き国内第三位の学生数を抱えるヨーク大学が今、エンジニア教育の先端として衆目を集めている。2012年に新設された学部ラソンド・スクール・オブ・エンジニアリングだ。

 2011年11月、慈善家ピエール・ラソンド氏はこのエンジニアリング・スクールの創立に2500万カナダドルを寄付すると発表した。同時にヨーク大学も同額の寄付を、さらにオンタリオ州が5000万カナダドルの寄付を決定。総額2億5000万カナダドルという金額が、同学部に寄せられた期待の高さを物語る。

 カナダで最後にエンジニアリング・スクールが作られたのは40年前のこと。「ラソンド氏と私はずっと、どんな学校を作るべきか考え続けていました」と学部長のジャヌス・コジンスキー氏は述懐する。

「世界は急速に変化しており、気候変動、過密人口、貧困といった新しい問題が登場しています。にもかかわらずエンジニアリング教育は長い間変わっていません。私がエンジニアリングを学んだのは1970年代ですが、今も同じような教科書を使っています。エンジニアという職業は20年後どうなっているか、世界の課題にどう向き合えばいいのか、教育システムはどうあるべきなのか......。私たちは自らに問い、やがて"根本的に新しいことをやらないといけない"という結論に達しました」

ソーシャル機能に特化し、反転授業を支える学習環境

 ラソンドの教育方針は3つの理念にまとめられている。1つめは「ルネッサンス・エンジニアリング・カリキュラム」。エンジニアリングを究めるためのラボを備えつつ、ヨーク大学のMBAおよび法科大学院とパートナーシップを組み、エンジニアリングからビジネス、法律まであわせて学べる環境を整えた。

「ここはアントレプレナー養成機関でもあります。卒業生には『仕事に満足できない』状態になってほしくありません。自分のため他人のために仕事をクリエイトする、あるいは起業する。そのために必要な、ビジネスプランの立て方や会社の設立方法、運営ノウハウを多角的に学んでもらいたいのです」(コジンスキー氏)

 ラソンドでは、最長1年半のインターンシップを行う期間が用意され、単位として認められている。インターンを通じて、リアルなビジネス感覚を養わせるのが狙いだ。起業を志す学生に対しては、大学が最初の出資者やカスタマーになるなどのサポートも手厚い。

【参考記事】5割の社員がオフィスにこない、働き方満足度No.1企業

wsYork_1.jpg

建物内に4つしかないというレクチャールーム。ディスカッション主体の授業がここで行われる。いくつかの座席がクラスター状に集まり、少人数での議論を容易にする。

wsYork_2.jpg

学生たちの「出会い」を演出するフリースペース。教室での授業後もこの場所でディスカッションが続いていく。

wsYork_3.jpg

校舎内の壁面はホワイトボードとして使用可。数式を書き込みながらディスカッションする学生の姿がそこかしこに見られた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、欧州統括会社で87の全職位を見直し 組織を効

ワールド

中国紙「日本は軍国主義復活目指す」、台湾有事巡る高

ワールド

世界の石油需要、2040年まで増加続く見通し=ゴー

ビジネス

モルガンSに書簡、紫金黄金国際の香港IPO巡り米下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中