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監督インタビュー

『アイヒマンを追え!』監督が語る、ホロコーストの歴史と向き合うドイツ

2017年1月5日(木)15時40分
大橋 希(本誌記者)

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当時は犯罪とされた同性愛の問題もテーマになっている © 2015 zero one film / TERZ Film

――ナチスの犯罪を裁くフランクフルト・アウシュビッツ裁判(63~65年)でバウアーは原告団を率いた。半年ほど前に94歳の元ナチス親衛隊員に禁錮5年が言い渡されたように、今でもナチスの犯罪に対する裁判は続いている。

 強制収容所の元看守ジョン・デミャニュクが懲役5カ月になった、2011年の画期的な裁判がある。このとき初めて、強制収容所に関与した者は高官でも看守でも、自ら殺人行為を行っていなくても殺人罪に問えることが認められた。それはアウシュビッツ裁判でバウアーが判例にしようとして、かなわなかったことだ。

 アウシュビッツ裁判からこれだけの時間がかり、責任を問われなった人がたくさんいたことは悲劇だと思う。今日まで、知識階級層のホロコースト責任者たちは1人も殺人罪で起訴されていない。

――あなたはアイヒマンの裁判を同時代では経験していない。当時を知らないから難しかったこと、反対に良かったことはあるか。

 バウワーの時代は、自分にとって遠いものではない。両親の青春時代がこの映画の舞台の時期で、両親や祖父母の話から時代の雰囲気なども分かっていた。

 共同脚本のオリビエ・グエズがユダヤ系フランス人だったことは助けになった。ドイツ人にとって、ホロコーストの話は罪悪感からとても語りづらいものだ。映画を作ることで、その気まずさを乗り越えることができたのは自分にとって大きかった。

【参考記事】今の韓国社会の無力感を映し出す? 映画『フィッシュマンの涙』

――ドイツでも日本でも、戦争中の自国の行為についていつまで謝罪を続けるべきか、という議論があると思うが、ドイツでは今、どのように考えらているのか?

 常にわれわれは振り返らないといけないし、同時に前を向かなくてはならない。ドイツでは(東西ドイツ分断の)48年からずっと、一定のゴールを決めてそこからはこの話をするのはやめようという雰囲気があるし、実際にそう主張する人もいる。でもそれは間違っていると思う。あれだけの極端な経験は話し続け、語り継がれなければならない。

 今日の世界のあり方は、過去と関係がある。ドイツが50年代に「経済の奇跡」と呼ばれる経済成長を実現したのはドイツ人が几帳面で勤勉で頭がいいからだと言われているが、そこには嘘がある。

 それも一面かもしれないが、もう1つ、アメリカの資金援助があった。西ドイツを共産主義の防衛線にしたかったからだ。第2次大戦後のドイツから再び戦争を起こす能力を奪うため重工業を解体し、農業国にするという計画もあったが、結局はアメリカがドイツを復興させようと判断したことが大きかった。

 歴史を見なければ現在を理解することはできない。だから、もう十分だ、忘れようとは絶対に言えない。

 別の例を言うと、「アラブの春」が起きたとき、ドイツ人を含めヨーロッパの人々は、「彼らは民主主義のことなんて何も分かっていない」と言っていた。欧州ではフランス革命から第2次大戦の終わりまで200年かけて民主主義は成熟していったのに、そんな自分たちの歴史を忘れているから言えることだ。

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