最新記事

海外ノンフィクションの世界

1年間すべてに「イエス」と言った女性から日本人が学べること

2016年12月27日(火)12時34分
押野素子 ※編集・企画:トランネット

Danny Moloshok-REUTERS

<ヒラリー・クリントンが大統領選で何度も言及した「ガラスの天井」。女性の地位向上を阻むその壁を打ち破っているのが、米エンタメ界で活躍する脚本家ションダ・ライムズだ。彼女は「1年間あらゆることにイエスと言おう」と決め、そこから全世界の女性に向けた『YES ダメな私が最高の人生を手に入れるまでの12カ月』が生まれた> (写真:ションダ・ライムズ、2016年2月)

 ガラスの天井(glass ceiling)――女性(現在は、女性だけでなくマイノリティも含む)の昇進や地位向上を阻む、見えない壁を意味する言葉だ。2016年にこの言葉を最も印象深い形で使った女性は、ヒラリー・クリントンだろう。

 そもそもクリントンは、2008年の大統領選予備選でバラク・オバマに敗北した際、「今回は最も高く、最も堅固なガラスの天井を打ち破ることはできませんでしたが、皆さんのおかげで1800万ものヒビが入りました」と、この言葉を使っていた。そして2016年、7月26日の民主党全国大会で主要政党初の女性大統領候補に正式指名されると、「天井がなければ、可能性は無限大なのです」と再び効果的に使用したため、名文句として全米のメディアで大きく報じられたのだ。

 さらに、大統領選でドナルド・トランプに敗北すると、クリントンは敗北宣言の中にもこの言葉を盛り込んだ。「私たちは最も高いあのガラスの天井を打ち破るには至っていません。それでもいつの日か、願わくば私たちの予想よりも早く、誰かが打ち破ってくれるでしょう」

【参考記事】女性政治家を阻む「ガラスの天井」は危機下にもろくなる

 政界の女傑クリントンですら、こうして幾度となく言及せざるを得なかった「ガラスの天井」。その分厚いガラスの天井を自ら打ち破りながら、同胞である女性、ひいては有色人種やLGBTQ(性的マイノリティ)を支援しつづけている黒人女性がいる。テレビプロデューサー/番組制作総指揮監督/脚本家のションダ・ライムズだ。

 彼女は、作品の登場人物がアメリカの現実世界と同じ構成になるよう、女性、有色人種、LGBTQの人々をテレビに多数起用した初めての脚本家として名を馳せている。また、熱烈なクリントン支持者として知られるライムズは、『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』『スキャンダル 託された秘密』『殺人を無罪にする方法』などのドラマを執筆・製作して立て続けに大ヒットを飛ばし、その才能と創造力のみで米国のエンタメ界の頂点に君臨している(ちなみに、ヒラリーの夫であるビル・クリントン元大統領もライムズの大ファンとして有名だ)。

1年間、イエスと言いつづけた過程をユーモラスに

 そんなスリリングなフィクションの作者として知られるライムズが初めて執筆した自伝的エッセーが、『Yes ダメな私が最高の人生を手に入れるまでの12カ月』(筆者訳、あさ出版)である。ライムズは同書の冒頭で、「自分について書くだなんて、超人気のレストランでテーブルの上に立ち、『パンティをはいていないのよ』とドレスを持ち上げてみせるようなものだ」と語っているが、その言葉どおり、「強くて聡明な黒人女性」というパブリック・イメージからはかけ離れた「ごく普通の女性像」をさらけ出している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪、中国軍機の照明弾投下に抗議 南シナ海哨戒中に「

ワールド

ルーブル美術館強盗、仏国内で批判 政府が警備巡り緊

ビジネス

米韓の通貨スワップ協議せず、貿易合意に不適切=韓国

ワールド

自民と維新、連立政権樹立で正式合意 あす「高市首相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 7
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中