最新記事

BOOKS

黒人を助け、同性愛者の入会もOK? 差別結社KKKの本当の正体

2016年12月10日(土)07時05分
印南敦史(作家、書評家)

<トランプ現象との共通項で注目の集まる秘密結社クー・クラックス・クラン。だが『クー・クラックス・クラン――白人至上主義結社KKKの正体』によれば、「暴力的な黒人差別集団」というイメージではくくれない部分も>

クー・クラックス・クラン――白人至上主義結社KKKの正体』(浜本隆三著、平凡社新書)は、白人至上主義結社として知られるクー・クラックス・クラン(本書では「クラン」と略称、以下クラン)の実態を明らかにした新書。著者は、これ以前にもクランに関する著作を送り出してきた実績を持つ研究者である。

 まず注目すべきは、第一章「ポピュリズム政治の源流」冒頭部分において「トランプ現象」を取り上げている点だ。トランプ現象とクランの間には、白人至上主義という共通項があると指摘しているのである。


筆者はこれまで、アメリカの秘密結社クランに関心をもち研究を行ってきたが、最近、アメリカのメディアにおいては、トランプ現象とクランとも結びつける言説が現れるようになり、両者の関係に注目が集まってきた。
 両者の接点として、メディアはしきりに白人至上主義を取り上げている。すなわち、トランプの移民拒否の姿勢と、クランの排外主義の主張とが重ねられ、その根底に白人至上主義という共通項を見出しているのである。(15ページより)

【参考記事】トランプ氏がKKK元幹部からの支持拒否せず、選挙集会で黒人団体が抗議

 たしかに読み進めていくと、ドナルド・トランプの言動を思い起こさせる箇所がいくつもあり、当然ながらそれは得体の知れない恐怖感へとつながっていく。ただし同時に、クランが必ずしも"暴力的な黒人差別集団"というような表層的なイメージだけでくくれるものではないこともわかってくる。


 クランは南北戦争後、黒人と白人がどのような関係を築いていくか、探り合うなかで誕生した一種の白人の自衛組織であった。このとき黒人と白人を隔てていたのは、人種の壁だけではなかった。両者のあいだには、奴隷制によって成立していた前近代的な価値観と、人権思想にもとづく近代的な価値観という、決定的な認識上の溝があった。クランは、局所的にみれば奴隷制廃止や共和党支配に反対する政治結社である。だが、クランが根本的に抗っていたのは、北部から押し寄せる近代という時代の波に対してであった。(106ページより)

 なるほどそのとおりで、1866年の結成時からのクランの道のりを時系列に沿ってトレースした本書においては、重要な指摘がなされている。彼らの活動が1866~1871年の第1期、1915~1925年ごろまでの第2期、1950~1980年代の第3期に分かれ、それぞれ性格が異なっているということだ。そこには、「近代という時代の波」に翻弄されていたようなニュアンスすら感じられる。

 クランは、南北戦争時の南部連合軍に従軍した6人の元兵士によって設立された。その第1期は、南北戦争後からクラン対策法成立までの時期である。特徴的なのは、このころ彼らは必ずしも黒人を蔑視していたわけではなかったということ。ターゲットは黒人連帯結社「ユニオン・リーグ」、そしてその活動を支援する白人と共和党だったという。

 第2期の根底にあるのは、移民の増加を背景とした排外主義である。わかりやすくいえば、移民の増加にビビッていたわけで、これなどまさにトランプとの共通点であるといえる。ちなみにこの時期には、ネズミ講のような手段を利用したこともあって会員数が増大したが、女性や未成年のクランもあったせいか暴力性はあまりなかったようだ。

 そして第3期、その性格はまたもや変化する。スタートラインが公民権運動の高まりと重なったことも影響し、白人至上主義者による暴力的な側面が高まるのである。その動きに歯止めがかかったのは、1981年にレーガン大統領が就任してから。ここから右翼団体への取り締まりが強化されたことにより、多くのクランが解散に追い込まれていくのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中