最新記事

屋内農場

食料危機を解決? 太陽光と海水だけ、砂漠でもOKな屋内農場

2016年11月17日(木)17時50分
松岡由希子

Copyright 2016 Sundrop Farms Ltd

<気候や土壌、時期を選ばずに食料を栽培できる屋内農場ソリューションが、世界各地で開発されている。化石燃料や水資源にも依存しない、より持続可能な屋内農場が作られた>

食料危機を解決する?夢の農場

 国際連合(UN)は、2016年時点で74億人と推計される世界人口が、2050年には97億人規模まで拡大し、とりわけ、サハラ砂漠以南のアフリカ地域や中東地域などの発展途上国で人口が著しく増加すると予測している。このような将来の人口増加に備え、国際連合食糧農業機関(FAO)では、世界全体の食料生産量を、2050年までに、2007年比70%増の規模に拡大させる必要があると分析している。

 英ロンドンのスタートアップ企業「Sundrop Farms」(サンドロップ・ファームズ)は、2010年以降、南オーストラリア州ポートオーガスタで、太陽光と海水を活用した屋内農場ソリューションの開発をすすめてきた。

 ポートオーガスタは、水資源が乏しく、厳しい気候ゆえ、従来は農業に不向きとされていた。そこで、「Sundrop Farms」では、5.5キロ離れたスペンサー湾から海水を引き入れ、海水淡水化装置で浄化し、農業用水として活用。土を一切使わない"水耕栽培法"を採用し、土の代わりに給水用のヤシ殻に種を蒔き、農作物を栽培している。室内の温度や湿度、光などは、常時、最適に制御されており、気候を問わず、年中、安定的に農作物を栽培することが可能だ。農業生産性は、従来の砂漠地域に比べて15〜30倍高く、1年間で1万7,000トン相当のトマトを収穫できるという。

 また、石油などの化石燃料に依存せず、再生可能エネルギーを活用しているのも特徴だ。20ヘクタールの敷地に2万3,000枚の鏡を設置し、効率的に集めた太陽光を使って、海水の淡水化や農作物の栽培など、この農場で利用するエネルギーを発電している。

Sundrop Farms


 「Sundrop Farms」では、収穫した農作物の流通チャネルの開拓にも取り組んできた。たとえば、ポートオーガスタの屋内農場で収穫されたトマトは、オーストラリアの小売チェーンストアColes(コールス)との提携のもと、オーストラリア国内750店舗を通じて、一般消費者に届けられている。


Sundrop - Overview from Sundrop Farms on Vimeo.

 「Sundrop Farms」は、すでに、ポートオーガスタのほか、ポルトガル南部オデミーラや米テネシー州でも、同様の屋内農業ソリューションの設置に着手しており、今後、事業エリアをさらに広げていきたい考えだ。

161116sundrop1.jpgCopyright 2016 Sundrop Farms Ltd

 近年、米ニュージャージー州の「AeroFarm」や米マサチューセッツ工科大学メディアラボが研究をすすめている「CityFARM」など、気候や土壌、時期を選ばずに食料を栽培できる屋内農場ソリューションが、世界各地で開発されているが、「Sundrop Farms」は、化石燃料や水資源といった限りある資源にも依存しない、より持続可能なソリューションであり、先進国はもとより、人口増加が予測されているアフリカ地域や中東地域の乾燥帯などでも、大いに需要が見込めるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中