最新記事

東京五輪

【小池都知事】クリーンな東京五輪を実現するために

2016年9月5日(月)16時30分
小池百合子(東京都知事)

五輪を変える3つの構想

 理由の1つとして挙げられるのが、大会の計画や運営担当が分散化されていて、責任の所在がはっきりしないことだ。

 もちろん責任の一端を担い、コストの一部を負担するのは中央政府だが、多くの仕事を抱える官僚がオリンピックの開催準備に専念するのは不可能だ。

 従って大抵は開催都市の行政組織が不足を補い、コストの大部分を負担することになる。しかし資源も専門知識も限られているため、都市レベルの政府はコスト管理に適任とは言えない。

 地元の大物やビジネス関係者から成る大会組織委員会も問題になり得る。委員会は資金集めに貢献するが、主要施設の建造地や施工者を決めるに当たって大きな影響力を持っている。

 こうした状態では、誰もがすべてに責任を持つことになる。言い換えれば、誰も責任を持たないということだ。だからこそオリンピックは無駄遣いと汚職と公的債務にたたられてきた。

【参考記事】五輪開催コストは当初予算の「5割増し」が平均額

 だが東京大会は、これまでと大きく異なるものになる。第1に、私たちは契約の透明性を実現する。税金によって行われるイベントである以上、契約受注を目指す事業者は民間部門におけるような守秘義務を期待してはならない。

 第2に、大会の監査業務は特別に選任した会計士と汚職対策専門家に委任する。巨額のカネが絡むのだから、「慣例どおり」で処理することは許されない。

 最後に、関係者にそれぞれの責任を果たすことを求める。IOC(国際オリンピック委員会)や企業スポンサー、各国のテレビ局は、予算が手頃で汚職と無縁の五輪を理想とすべきだ。開催地に大変なコストを強いつつ、自らは巨利を貪るのはオリンピック精神に反する。

「より速く、より高く、より強く」というモットーに、東京大会では「よりクリーンに」を加えることを提案していきたい。汚職もドーピングもないスポーツの祭典――それこそがオリンピックの精神にかなう。

<この記事は、英文オピニオン・サイト「Project Syndicate」に掲載された小池百合子氏の意見記事を、翻訳・編集したものです>

©Project Syndicate

[2016年8月30日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

核保有国の軍拡で世界は新たな脅威の時代に、国際平和

ワールド

米政権、スペースXとの契約見直し トランプ・マスク

ワールド

インド機墜落事故、米当局が現地調査 遺体身元確認作

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、円安で買い優勢 前週末の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中