最新記事

人権問題

豪元判事から政府へ「難民1人の受け入れと交換で自分が収容所に入る」

2016年9月2日(金)16時00分
シボーン・オグレイディ

David Gray-REUTERS

<難民申請者を国外の離島の収容所に隔離するオーストラリア政府に対する批判が高まっている。心を痛めた高齢の元判事は、自分が収容所に入る代わりに難民1人を受け入れる「身柄交換」を申し出た>(写真はシドニーで行われた難民政策に対する抗議デモ)

 オーストラリアの元判事ジム・マッケン(88)は輝かしい人生を送ってきた。法廷弁護士や労働裁判所の所長を歴任し、2003年にはオーストラリアの勲章を授与されている。

 そのマッケンが今、自分の国籍まで放棄して、オーストラリアから遠く離れた劣悪な環境の難民収容所に移住することを決意した。しかしそれには条件がある。自分の身代わりに難民1人をオーストラリアに受け入れることだ。

「1人の難民がオーストラリアに受け入れられ、生活できる機会を与えられるなら、身代わりになる」と、今週マッケンは英ガーディアン紙に語った。

 マッケンはピーター・ダットン移民・国境警備相に送った手紙で、この身柄交換を提案した。

【参考記事】希望のない最小の島国ナウルの全人口をオーストラリアに移住させる計画はなぜ頓挫したか

 オーストラリアでは、難民認定を求めて海から入国しようとした移民や難民を、本土から遠く離れた南太平洋の島国ナウルやパプアニューギニア・マヌス島の収容所に送っている。

 難民はここで数カ月から数年間待たされるが、英紙ガーディアンは先月、内部資料をもとに、収容所で人権侵害や性的虐待が横行し、難民の自傷行為も起きていることを告発した。報道を受け、オーストラリア政府は国際的な批判に晒されている。

【参考記事】オーストラリアの難民虐待に学びたい?デンマークから視察団

 収容所には定員を超えた難民が詰め込まれ、オーストラリア政府の監視は行き届いておらず、結果として、オーストラリアへ逃れようと命がけで海を渡ってきた人々が危険な状況下に置かれている。

【参考記事】難民収容所で問われるオーストラリアの人権感覚

「このような提案が普通ではないことはよくわかっている。しかし私はまったく真剣だ」と、マッケンは手紙で述べる。「難民の身代わりとして、晩年をマヌスやナウルで過ごすのは名誉なことだと考える」

 今回の申し出はマッケンの人柄を反映しているようだ。シドニー郊外ピットウォーターの地元情報サイトは2014年に、マッケンを「まるでわんぱく小僧のようで、心の底から寛大、そして極めて誠実な人物」と紹介している。

 マッケンが担当大臣に手紙を送ったのは先月だが、まだ返事は受け取っていない。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、メキシコなどの麻薬組織へ武力行使検討 

ビジネス

米国株式市場=S&P小幅安、FOMC結果待ち

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、雇用市場に依然底堅さ

ビジネス

米NEC委員長「利下げの余地十分」、FRBの政治介
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中