最新記事

BOOKS

「反安倍」運動に携わるシニア左翼の実態と彼らのSEALDs評

2016年8月22日(月)21時12分
印南敦史(作家、書評家)

 しかしその一方、評価する理由として「むかしを思い出して血が騒いでしまう」というような人がいたりするのも事実だ。また、SEALDsを評価しない人が明らかにしている「理由」を見ると、少なからずがっかりしてしまうことも否めない。


「とにかく国会に突っ込むべき」
「運動として生ぬるい」
「礼儀正しすぎて若者らしい無鉄砲さがない」
「『民主主義を守れ』はおかしい。戦後民主主義は欺瞞に満ちており、疑ってかからなければならない。われわれ全共闘世代はそれを否定したところに運動の源があった」
「政治家とつるむのはもってのほか」
「コールではなく、シュプレヒコールである。『フライヤー』ではなく『ビラ』だ。われわれは闘うぞ、を言わなければ運動が盛り上がらない」(60~61ページより)

 評価しない人が2割だったということがせめてもの救いだが、少数でもこういう人がいるからだめなのだと強く感じる。「国会に突っ込め」「生ぬるい」などの発言からは彼らがいまだ「学んでいない」ことがわかるし、「『フライヤー』ではなく『ビラ』だ」など、くだらないところにこだわる視野も、情けなくなるほど狭い。

 SEALDsに感化され、そこに新たな姿勢を見出そうとしている人たちがいる一方、たとえ少数とはいえ、「まだ昔のまんま」の人たちもいる。率直にいって私は、シニア左翼の動き自体には共感するところが多いし、イデオロギー的には自分もそちら側だろうと認識している。だからこそ、「昔のまんま」の人たちが、そうではない人たちの足を引っぱる可能性もあるのではないか、つまり、問題があるとすれば彼らだ――そんなことが、どうしても頭から離れなかった。

 もちろんそれは、本書の完成度の高さとはまったく別の話なのだけれど。


『反安保法制・反原発運動で出現――
 シニア左翼とは何か』
 小林哲夫 著
 朝日新書

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、8月は前月比+0.5% 予想上回る

ワールド

韓国、対米自動車関税の早期解決目指す 「日韓の違い

ビジネス

iPhone17、中国で好発進 北京旗艦店に数百人

ワールド

高市氏、党総裁選で公約「責任ある積極財政」 対日投
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中