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ヨーロッパで政争の具にされる国民投票

2016年8月30日(火)18時20分
マット・クボートルップ(英コベントリー大学政治学教授)

 政治家は目先の利益のため、ご都合主義的に国民投票を利用する。驚くには当たらない。政治とはそういうものだ。にもかかわらず、国民投票には政治への関心が高まるという副効果があるらしい。言うまでもなく、これは望ましい効果だ。

 国民投票ではデマゴーグが幅を利かせ、愚かな大衆が限られた情報やでっち上げの情報を基に不合理な判断をすると批判されてきた。だが、こうした見方にほとんど根拠はない。多くの場合、ポピュリズム政党が国民投票を呼び掛けるのは事実だが、有権者がポピュリズムの政策を支持することはめったにない。スイスでは10回行われた国民投票のうち9回で、有権者はより寛大な移民政策を選択した。

 しかし、国民投票の利用が茶番劇と化したケースもある。例えば、昨年ギリシャのツィプラス政権が債権団から譲歩を引き出そうと、土壇場で実施した国民投票だ。投票実施の決定から投票日まで1週間足らず。国民は「緊縮財政にノー」の結果を出したが、債権団はまったく相手にしなかった。結果的にギリシャはより厳しい緊縮政策を受け入れる羽目になった。

 国民投票を本来の目的である民意を問う投票にするには、有権者が熟慮の上で判断を下せるような条件を整える必要がある。時間をかけて、さまざまな場で議論を重ね、メリットとデメリットをよく理解した上で、選択できるようにすることだ。直接民主主義も含め民主主義はただの多数決ではない。さまざまな立場から意見を出し合い、議論を深めるプロセスが不可欠だ。

 今後ヨーロッパでは、熟慮を要する国民投票が相次いで実施されるだろう。専門家には分かりやすい正確な情報提供が求められる。有権者もそれを理解する努力が求められることを忘れてはならない。

From Foreign Policy Magazine

[2016年7月19日号掲載]

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