最新記事

南シナ海

【ルポ】南シナ海の島に上陸したフィリピンの愛国青年たち

2016年8月8日(月)17時00分
舛友雄大(シンガポール国立大学アジア・グローバリゼーション研究所研究員)

masutomo160808-2.jpg

写真提供:Kalayaan Atin Ito

 15歳の最年少メンバーを含む50人の若者は、まず西フィリピン海(2012年にフィリピンが公式名称とした南シナ海に当たる海域)を臨むパラワン島へ向かい、出発の機会をうかがった。12月24日、パガサ島へ上陸するための2泊3日の船旅がようやく始まった。メンバーの誰もが、中国からの攻撃を覚悟していた。だが意外にも、周辺海域で船を止めようとしたのは中国軍艦ではなく、フィリピン海軍だった。

 荒波対策に苦労した。メンバーの中には泳げない人がいたため、万一に備え、泳げる人と泳げない人のペアが事前に組まれていた。波があまりに大きく、航行のあいだ、船の上でまともに立つことはできなかった。できることといえば、床に横になっておくことくらい。食料倉庫へ行くことすらままならならず、メンバーの中には酔って嘔吐する人もでてきた。それでも、木製の船なので転覆しても沈むことはないと信じていた。

地図中、Thitu Islandがパガサ島、Subi Reefがスビ礁、Fiery Cross Reefがフィエリークロス礁、Mischief Reefがミスチーフ礁(この地図にスカボロー礁は表示されていない。係争中の島が多く点在する海域の東側にある南西から北東に伸びた細長い島がパラワン島)


 その当時、船に乗っていた大学2年生のジェスパーに印象的だったことをたずねると、彼は未だ興奮冷めやらぬ様子で声を大きくして語った。「流星が見えた。すっごく大きなのが。すぐそこに。最初は中国がロケット弾を打ち込んできたのかと思った」

 マニラのビジネス街・マカティ出身のジェスパーは、高校時代から生徒会で活躍するなど社会問題に興味があった。昨年、友達に誘われてこのグループの活動に参加した。その時にボランティアが言っていた「国家統一と愛郷心は、国を前進させるために避けては通れないジャンプ台だ」という一言に心を揺さぶられ、運動にのめり込むようになった。

 3日目の昼にパガサ島に着いた。アンドレ(34)は船から降りると、足元にサンゴ礁の死骸があることに気づいた。中国が近くで人工島を造っていて、化学物質が流れ出てきたからではないかと推測した。中国はパガサ島周辺の魚を死滅させて食料を奪うことによって、島民が島から離れさせようとしているのだ、と思った。

わずか20キロ先に中国が実効支配するスビ礁

 西フィリピン海に浮かぶ島々を管轄するカラヤン町政府は、政策としてパガサ島への移住を奨励してきた。しかし、予算不足の地元政府が提供できる食料には限界があるため、島民は120人以下にとどまっている。時々本島に帰る人もいるので、島に住民が90人ほどしかいない時もある。

 パガサ島から西へわずか11海里(約20キロ)にあるスビ礁。中国側が実効支配するこの場所で、2010年には灯台が出現し、その翌年には直径20メートルのドーム状の建築物が登場した。さらに、中国は2014年から急ピッチで埋め立てを行い、その面積はすでに395万平方メートルに達している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏、第3政党始動計画にブレーキ=WSJ

ワールド

米大豆農家、中国との購入契約要請 トランプ氏に書簡

ワールド

韓国は「二重人格」と北朝鮮の金与正氏、米韓軍事演習

ワールド

トランプ政権、ワシントン検事局に逮捕者のより積極的
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 6
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 10
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 7
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中