最新記事

【2016米大統領選】最新現地リポート

トランプ夫人のスピーチ盗用疑惑も 異常事態続出の共和党大会

2016年7月20日(水)12時10分
渡辺由佳里(エッセイスト)

 どちらにしても、事実と照らし合わせて編集するのがチームの役割だ。

 もちろん、悪意はなく、うっかり引用を使うミスを犯すことはあるかもしれない。メモを沢山取っているうちに、自分が書いた文と引用を混同してしまうようなケースだ。けれども、それをチェックするのがプロのスピーチライターと編集の仕事だ。アメリカの学校では「盗用」は深刻な違反であり、大学教授は学生の論文に盗用がないかどうかを調べるソフトウエアを使っている。トランプ陣営もその程度の努力はできたはずだ。

「スピーチライターがうっかりミスをした」とすぐに謝罪したら大きなニュースにはならなかったかもしれない。だがマナフォートは、次のようにメラニア本人のミスを示唆しただけでなく、ヒラリーを糾弾した。

「ミシェル・オバマのスピーチからの不正複製などはない。(メラニアが)家族を大事にするとかいったことは、よく使われる表現と価値観だ」、「(メラニアは)昨夜は3500万人もの前で話さなければならないと、ちゃんと知っていた。それなのに、ミシェル・オバマの言葉を盗んだりするだろうか?(そんなことを疑うほうが)クレイジーだ」、「別の女性がヒラリー・クリントンの立場を脅かすと、(ヒラリーは)面目をつぶしてこき下ろそうとする。これもその一例だ」

【参考記事】トランプ陣営はスタッフも資金も足りない

 ミシェル・オバマから文章を拝借したのがメラニアなのか、スピーチライターだったのかは定かではない。だがどちらにしても、プロではないメラニアのスピーチを最終チェックしなかったのは、スピーチライターであり、そのスピーチライターを手配したマナフォートに大きな責任がある。

 メラニアは、夫のトランプが気に入らなかったマイク・ペンスを副大統領候補に選んだ件でもマナフォートに不信感を抱いている、と言われている。副大統領候補の発表のときに姿をあらわさなかったのは、トランプを説得した継子のイヴァンカやエリックへの反発だと噂されているが、そもそもペンスが最終候補になったのはマナフォートの影響だ。誰の意見にも耳をかさないトランプがとりわけ重視しているのは娘のイヴァンカと妻のメラニアの意見だと言われる。

 そのイヴァンカとメラニアの間で勢力争いが強まるとしたら、「お家騒動」は共和党だけではとどまらない。トランプ陣営を崩壊させるのは、他の誰でもなく、トランプの最も身近にいる家族かもしれない。

ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート

筆者・渡辺由佳里氏の連載コラム「ベストセラーからアメリカを読む」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中