最新記事

サイエンス

航空機も「育てる」化学のコンピューター

2016年7月5日(火)18時15分
アンソニー・カスバートソン

BAE Systems

<研究者が『ターミネーター2』ばりの動画を公開。化学式をプログラムすると人手も時間もかけずに航空機だって作ってしまう夢のケミカル・コンピューター>

 未来の戦争は化学戦だ。といえば化学兵器を使った戦争を想像しがちだが、そうではない。2100年までに、化学物質からドローンや軍用機を「育てる」ことが可能になると、科学者たちは信じている。使われるのは「ケムピューター(ケミカル・コンピューターの略)」と呼ばれる機械だ。

 どろどろの液体が結合してアンドロイドが生まれる『ターミネーター2』の一場面を思い起こさせるようなビデオには、ケムピューターが化学物質からドローンを生み出す様子が再現されている。英国営の航空宇宙企業BAEシステムズとグラスゴー大学で研究する科学者や技術者たちの想像に基づく映像だ。

「化学の発展において、今は非常に面白い段階だ」と話すのは、欽定教授の称号を持ちケムピューターの開発にも携わるグラスゴー大学のリー・クローニン教授。

【参考記事】人工の葉っぱとバクテリアで、太陽光から液体燃料を生み出す技術

 クローニンによると、開発者たちは製造工程における人間の援助を最小限にし、ケムピューターを使って複雑な物体を組み立てる技術の開発を目指している。そうなれば飛行機も、数カ月や数年といった単位でなく、たった数週間で製造できるようになるという。

 クローニンはこうも付け加えた。「この技術で小型飛行機を製造するには高いハードルがある。だが発想力を駆使し、デジタル技術を総動員すれば、最終的に複雑な化学物質から原料を組成するデジタルプログラミングが可能となるはずだ」

【参考記事】天才テスラも驚愕? カーボンナノチューブが勝手に電気回路を作り上げた

 ケムピューターを製造に活用するアイデアは、すでに薬品の製造でクローニンが理論化している。将来、調合薬を家で「プリント」できるようになるという発想だ。

 そのアイデアを複雑な電子回路や難解な機械部品に応用するのは、途方もない挑戦だ。BAEシステムズも今世紀中に実現できれば良いと考えている。

【参考記事】体内に注射できるほど小さなカメラを3Dプリンターで作成

 BAEシステムズのグローバル・エンジニアリング研究員であるニック・コロシモ教授は次のように話した。「軍用機や民間機を取り巻く世界は常に進化を続けており、ここでの仕事は刺激的だ。BAEシステムズの外部の科学者やエンジニアと共同研究し、ユニークなイギリスの技術が将来の軍事的脅威に取り組むのに貢献できるかもしれないのだから」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中