最新記事

サイエンス

天才テスラも驚愕? カーボンナノチューブが勝手に電気回路を作り上げた

自分の体を自己組織化するロボットもいずれ登場する?

2016年4月29日(金)08時00分
山路達也

自分で自分を組み立てるカーボンナノチューブ  Rice University-YouTube

強力な電界をかけると、カーボンナノチューブの粒子がワイヤーを作った

 電気自動車会社テスラモーターズの社名の由来ともなった、異能の科学者/発明家ニコラ・テスラ(1856-1943年)。彼が発明した、交流による発送電装置や無線トランスミッターなどは現代文明の基盤になっているといっていい。

 彼の発明品の1つ、テスラコイルを科学実験番組などで見たことのある人もいるだろう。テスラコイルとは、2つのコイルを共振させて高周波・高電圧を発生させる変圧器なのだが、その際にすさまじい稲妻が発生するのだ。マッドな科学者を表現するアイテムとして、テスラコイルはぴったりである。

 インパクトの割にはあまり使われていないテスラコイルなのだが、意外な分野で今後注目を集めることになるかもしれない。それは、カーボンナノチューブを使ったワイヤーの作成だ。

 カーボンナノチューブは、炭素原子が編み目のように結合し、ナノスケールの筒状になったもの。次世代半導体材料として期待されているほか、鋼鉄の20倍の強度があることから宇宙エレベーター(地表と静止軌道を結ぶエレベータ。ロケットよりも安価に宇宙空間へ物資や人を送ることができる)の材料にも使えるのではないかと言われている。

 米ライス大学Paul Cherukuri博士らの研究チームは、ナノ粒子状にしたカーボンナノチューブに、テスラコイルを使って強力な電界をかけた。すると、隣り合ったカーボンナノチューブの粒子は互いにくっつき、30cm以上離れた場所にあるテスラコイルに向かって長い鎖状のワイヤーを作っていったのである。ワイヤーの長さは、最大で15cmにもなった。

さらに複雑な電気回路を作れる

 さらに、カーボンナノチューブとともにLEDも入れておいたところ、カーボンナノチューブとLEDが結びついて回路を作り、テスラコイルが作った電界から電気エネルギーを取り入れてLEDを光らせることができた。

yamaji0426a.gif

 従来にも電界をかけることで小さな物体を動かすことは行われていたが、30cm以上も離れたところからナノ粒子を自己組織化することはできていなかった。研究チームは、この現象を「Teslaphoresis」と呼んでいる。

 Cherukuri博士は、ナノ粒子を載せる表面をあらかじめパターン加工し、複数のテスラコイルを使えば、さらに複雑な電気回路を作れると考えている。また、カーボンナノチューブ以外のナノマテリアルも使える可能性があるという。研究チームはこのTeslaphoresisの応用として、再生医療用のテンプレートを検討している。

 ちなみに、医療分野などでは自己組織化するマテリアルが注目を集めており、2015年9月にはロンドン大学クイーン・メアリーの研究チームが、タンパク質を自己組織化して人工血管を作る手法を発表している。

 生物とはまったく異なる原理で、自分の体を自己組織化するロボットもいずれ登場してくるのだろうか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中