最新記事

海外ノンフィクションの世界

米軍は5年前、女性兵だけの特殊部隊をアフガンに投入していた

2016年7月1日(金)16時03分
新田享子 ※編集・企画:トランネット

Monty Burton/U.S. Marine Corps/Handout-REUTERS

<2011年、法律をかいくぐってまで、アフガニスタンの前線に派遣されていた女性だけの米軍特殊部隊があった。『アシュリーの戦争』が女性兵の視点から描く、知られざる物語。彼女たちの苦労、戦場での日常、そして特殊作戦の成功と失敗とは?> (写真はアフガニスタンの子供と交流する女性兵、米海兵隊の配布資料より)

 2016年1月。アメリカは遂に米軍内のすべての軍事的職業を女性に解放した。ネイビー・シールズやグリーンベレーで有名な特殊作戦軍も例外ではない。女性兵は、男性兵と同じ訓練を受けることができ、選考試験を突破できれば、地上戦の直接戦闘にも加われることになったのだ。しかし、この動きは、やっとルールが現実に追いついたと言ったほうがいい。

 さかのぼって2011年8月。最精鋭の陸軍女性兵だけを集めた特殊部隊が初めてアフガニスタンの土を踏んだ。彼女たちはCST(=文化支援部隊)という特殊作戦プログラムのメンバーだ。特命を帯びた彼女らは、ゲリラをターゲットにした夜間急襲専門のレンジャー部隊に付帯し、レンジャーが強襲に踏み込む寸前までアフガン女性や子供たちから情報を聞き出す。タイムリーに情報を聞き出せれば、どちら側も犠牲者を最小限にできる。もちろん、敵は目の前。いざとなれば、彼女たちとて武器を引き抜き応戦する。

 実は、彼女たちが配置された2011年の時点では、アメリカの法律は女性が地上の直接戦闘に従事することを禁じていた。では、なぜ、そんな法律をかいくぐってまで、彼女たちはアフガニスタンへ派遣されなければならなかったのか。

 その理由を、6月末刊行の新刊、ゲイル・スマク・レモン著のノンフィクション『アシュリーの戦争――米軍特殊部隊を最前線で支えた、知られざる「女性部隊」の記録』(筆者訳、KADOKAWA)が、様々な角度から女性兵の視点で紐解いていく。1つには性差のない社会への流れがある。もう1つには、イスラム世界との戦いがあった。2001年の9.11同時多発テロ事件を引き金に始まったアフガニスタン戦争は、米国史上最も長い戦争となり、未だ終結していない。

【参考記事】米軍がアフガン駐留を続けざるを得ない事情

 米軍はアフガニスタン辺境地域で苦戦を強いられた。その理由の1つは、伝統的に男女が隔離される辺境のイスラム社会にあった。アフガニスタンの辺境地域では、男性兵が接触できない女性を隠れみのとして、男性ゲリラが逃亡するという事態が続発していた。その失敗から、米軍は特殊作戦における女性兵士の起用に踏み切ったのだった。

 女性兵士を派遣することで、イスラム社会の半数である、現地の女性たちから情報を入手することができる。つまり、イスラム圏の戦闘においては、最前線に立つ女性が不可欠だったのだ。米軍内で、この案に根強い反発があったことや、女性兵に平等な機会が与えられていなかったことを考えれば、皮肉である。

【参考記事】ママ兵士、アフガン派遣の試練

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ紛争は26年に終結、ロシア人の過半数が想

ワールド

米大使召喚は中ロの影響力拡大許す、民主議員がトラン

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中