最新記事

グルメ

美味しいロンドンはロシアが作る

2016年6月28日(火)15時50分
オーエン・マシューズ

 ロシアの先行き不透明なビジネス事情も国外進出の要因だ。「みんな国外に拠点を置きたがるのは安全のためだ」と語るレオニド・シュトフはモスクワの広告会社を売却し、ロンドンでレストラン経営に着手した。

 シュトフがソーホーに出したボブ・ボブ・リカードは、アメリカの軽食堂に30年代の食堂車をミックスした摩訶(まか)不思議な空間だ。ブース席にはランプや真鍮の手すりがあしらわれ、「シャンパンをご注文の際は押してください」と書かれたボタンが付いている。鮮やかなピンクと緑の制服を着たスタッフは、テリー・ギリアムの映画から抜け出してきたようだ。

 メニューはロシア料理とイギリス料理で、ワインリストにはお値打ち品も。小売店で52ポンドのラ・レゼルブ・ド・レオビル・バルトンが82ポンドと、レストランとしては控えめな値付けだ。

 ロシア勢の成功の秘訣は、銀行に帳簿をにらまれている地元の実業家には決してまねできない奇抜なアイデアを実現している点にあるらしい。

 例えばワインショップのヘドニズム・ワインズはこれまでの酒屋とは別世界。テイスティングコーナーには切り株をくりぬいた椅子を起き、天井にはワイングラスのシャンデリアをつるし、子供が遊べるコーナーまである。

メニュー3品で繁盛店に

 オーナーのエフゲニー・チチバーキンはロシアの携帯電話事業で財を成した後、09年にロンドンに移り、3年後にヘドニズム・ワインズをオープンした。ロシア人らしく、チチバーキンもロンドンで事業を始める際の規制の厳しさに驚いたという。「別に構わない」と彼は言う。「ここは個人の財産が尊重される法治国家だから」

 ヘドニズムは開店から1年で品揃えを評価され、ワイン雑誌デキャンタで「ロンドンのワインショップ・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。1811年物のシャトー・ディケム(9万8000ポンド)など超お宝もそろう。

【参考記事】ポルトガルで出合う究極のエッグタルト

 ミハイル・ゼルマンのバーガー&ロブスターは、その名のとおりハンバーガーと蒸したロブスター、そしてロブスターのサンドイッチのみで勝負する。価格はいずれも20ポンド。料理の選択肢が3つしかない旧ソ連顔負けのレストランに、今ではロンドンっ子が行列をつくる。

 バーガー&ロブスターは今やイギリス国内だけで10店以上を展開、1日に5000尾以上のロブスターを売りさばく。ゼルマンはロブスター・サンドイッチ専門のスマック・ロブスターロールやステーキハウスのグッドマンにも手を広げた。

「スペインのオーブンで焼き、ロシア人が給仕するアメリカンビーフをロンドンの人が食べてくれる。これもグローバル化のおかげだ」とゼルマンは言う。「外国人がクレージーなアイデアを持ち込んで、成功できる。それが今のロンドンだ」

[2016年6月28日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃

ビジネス

午後3時のドルは147円前半へ上昇、米FOMC後の

ビジネス

パナソニック、アノードフリー技術で高容量EV電池の

ワールド

米農務長官、関税収入による農家支援を示唆=FT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中