最新記事

映画

ウォール街の闇に迫る金融エンタメ『マネーモンスター』

2016年6月17日(金)16時10分
エイミー・ウエスト

暴走気味な司会者としっかり者のディレクターを演じるクルーニー(右)とロバーツ ©2016 CTMG, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

<株の暴落で全財産を失った男がテレビ局に籠城――。ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツの2大スター共演も魅力のジョディ・フォスター監督最新作>

 近年、ハリウッドでは金融危機が大人気。13年にはマーティン・スコセッシ監督の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』が、昨年は『マネー・ショート 華麗なる大逆転』が公開された。前者は実在の株式ブローカーの伝記映画、後者はコメディーと見えて、実はドキュメンタリー風のシリアスな作品だ。

 女優ジョディ・フォスターの監督4作品目となる『マネーモンスター』は、先の2本より軽妙なタッチで金融危機を取り上げる。焦点を当てるのも銀行家やブローカーといった金融業界内の面々ではなく、マスコミだ。

【参考記事】よみがえったヒトラーが、今の危うさを浮かび上がらせる

 投資情報番組『マネーモンスター』の司会を務めるリー・ゲイツ(ジョージ・クルーニー)は、財テクの神様。台本を無視してアドリブを連発し、生放送の番組でやりたい放題だ。

 そんな彼の手綱を多少なりとも締められるのは、長年組んできたディレクターのパティ・フェン(ジュリア・ロバーツ)だけ。コントロール室からリーの暴走を阻止しつつ臨機応変に対処し、毎週滞りなく番組を届けている。

「君が俺にカメラを向けてさえくれれば、後は俺たちで何とかできるさ」と、リーはパティに言う。実はパティはライバル局への移籍が決まっているのだが、リーに打ち明けられずにいる。

 2人で組む最後の生放送が始まったところで銃を手にした若い男がスタジオに乱入し、爆弾を振りかざす。

 男はカイル・バドウェル(ジャック・オコンネル)という労働者で、リーの番組での勧めに従いアイビス・クリア・キャピタルなるファンドに投資した。ところが番組の放映直後にアイビス株が暴落し、損失額8億ドルを計上。カイルは全財産を失った。逆恨みしたカイルはリーを人質に取り、暴落のからくりが分かるまではスタジオを出ないと脅迫する。

 オコンネルはイギリスの青春ドラマ『スキンズ』で、自己嫌悪と理由のない怒りの間で揺れる短気な少年を演じて注目された。今回もいつキレるか分からない男の役で演技力を見せつけ、観客をはらはらさせる。なかでもスタジオにふらりと入ってきて怒りを爆発させ、放送を中断したらリーの頭に銃弾をぶち込むと脅すシーンは必見だ。

深みよりもスリルを重視

 映画の見どころは、何といっても最高に芸達者な豪華キャストだろう。リードするのは共にオスカー俳優のクルーニーとロバーツ。4度目の共演となる2人が同じ場面に登場することは少ないものの、ぴたりと息の合ったところを見せる。

 長年の盟友という設定のリーとパティは、職場で気の置けない会話を交わす。人質になったリーを落ち着かせようと必死で語り掛けるパティを見ていると、演じる2人も同じような友情で結ばれているのだろうと思えてくる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾は「もちろん国」、頼総統が講演で中国の主張に反

ビジネス

米FRB、秋の利下げが適切になる可能性=SF連銀総

ワールド

原油先物5カ月ぶり高値、米のイラン核施設攻撃で供給

ワールド

「戦争は取返しつかぬ深淵開く」、ローマ教皇 外交努
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 2
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 3
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 9
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中