最新記事

EU

ジョンソン前ロンドン市長のEU=ヒトラー発言、離脱派に逆効果か

2016年5月25日(水)10時11分

 5月22日、ロンドン前市長のボリス・ジョンソン氏(写真)のヒトラー発言は、英国のEU離脱の是非を問う来月の国民投票で、離脱派にとって裏目に出るかもしれない。写真は離脱キャンペーンに参加する同氏。英トゥルーロで11日撮影(2016年 ロイター/Darren Staples)

 欧州連合(EU)たたきで名をはせたが、時に事実をゆがめるとの批判もあった元ジャーナリスト、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長は、読者の気を引くにはヒトラーを引き合いに出すより簡単な方法はないことを知っている。

 だが、力ずくで欧州大陸を支配しようとしたナチス・ドイツ総統やフランス皇帝ナポレオンの方法と関連付けて、EUの限られた、交渉による超国家的権力を批判しようとするジョンソン氏のやり方は政治的な危険に満ちている。

 このようなやり方は第1に、ジョンソン氏が属する保守党の2人の英雄、チャーチル、サッチャーの元両首相の戦略的ビジョンを無視している。2人は統合された欧州を、ヒトラー主義への答えとして、また、何世紀にもわたる流血の時代を経て平和と安定を確かなものとする方法として考えていた。

 ジョンソン氏は歴史をゆがめているだけではない。EUに加盟する民主主義国28カ国は、主権の一部を共有することに自由に同意しており、ジョンソン氏が現在英国に使うよう求めている自主脱退を可能とする条項さえ設けている。

 ジョンソン氏のヒトラー発言は、英国のEU離脱の是非を問う6月23日の国民投票で、離脱派にとって裏目に出るかもしれない。さらには、キャメロン首相に取って代わるという同氏の野望を狂わす可能性もある。

 EUに不信感を抱き、その行動が十分な民主的管理下にないと、多くの欧州市民のように感じている英国民でさえ、高圧的な独裁者やユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)などとEUを同一視はしないだろう。

 最新の世論調査では、来月の国民投票で、保守党支持層の間で残留支持が増加傾向にあることが示されている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

インフレ鈍化「救い」、先行きリスクも PCE巡りS

ワールド

韓国輸出、5月は前年比-1.3% 米中向けが大幅に

ワールド

米の鉄鋼関税引き上げ、EUが批判 「報復の用意」

ワールド

ガザ停戦案、ハマスは修正要求 米特使「受け入れられ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 9
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 3
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 4
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中