最新記事

熊本地震

被災者の本音、女性が抱える避難所ストレス

2016年4月21日(木)17時48分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

 当時取材したNPO法人「女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ」の正井礼子代表によれば、これは1995年の阪神淡路大震災でも見られた問題だった。阪神淡路では、ナプキンを使い続けたことで外陰炎を起こしたり、ひどいときには出血する女性もいたという。正井氏は、このときにバスタオルで隠しながら着替えていた女性の中には、その記憶がトラウマになっていまだに裸になるのが怖い人もいると語っていた。

被災者は「集合体」ではない

 5年前、東日本大震災の数多ある報道のなかで印象的だったのは、こうした「女性特有の悩み」が震災直後、ほとんど聞こえてこなかったことだ。

「東北人は我慢強い」とか「日本人は礼儀正しい」という言説が流布していたが、たしかに避難している方々は、こちらが聞かない限り「あれが欲しい」とか「これが不満だ」と声高には言わない印象だった。それでも、その印象論で被災者を「我慢強い」とひとくくりにするのは残酷だ。聞けば出てくる本音もある。

【参考記事】どうして被災県知事が情報の司令塔になれないのか?

 今でも記憶に焼き付いているのは、若い女性の被災者たちが軒並みマスク姿だったこと。みんな眉毛がなく、ふとカメラを向けるのがためらわれた。「化粧水とか、どうしてるんですか」とおそるおそる聞くと、「そう聞かれるのを待ってました」と言わんばかりに笑ってくれたことが忘れられない。震災から2週間後と、まだ化粧品=「贅沢品」という思考が働いていたのか、支援物資でも遠慮されていた時期のことだ。

 もちろん、女性特有の悩みは男性だと聞きづらいとか、男性に聞かれても本音で語れない、ということもある。同じように、男性同士でしか話せないこと、高齢者や子供を持つ母親、同性愛者やトランスジェンダーなど、当事者だからこそ気付く視点というのもあるだろう。「被災者」は1つの集合体ではない。

 今回の地震で、避難生活がどれだけ続くのは分からない。東日本大震災とは異なる点も多く、熊本にはすでに支援物資として生理用品や下着が続々と届けられているとも聞く。5年前の経験から学び、それが生かされているのかもしれない。

 一方で、阪神淡路で見えたはずの課題の中に、16年後の東北で十分に目を向けられなかったことがあったのもまた事実だ。その1つが、女性被災者が避難所で抱えるストレスの問題だった。今回こそは、埋もれがちな「教訓」から学べるのだろうか。少しの配慮で、被災者の心の負担が軽減されることは確実にある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米政府、資源開発資金の申請簡素化 判断迅速化へ

ワールド

訂正-セビリアで国連会議開幕、開発推進を表明 トラ

ワールド

対米交渉「農業を犠牲にしない」=トランプ氏のコメ発

ワールド

カナダ、初のLNG輸出貨物を太平洋岸から出荷 アジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中